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魂のゆくえのnetfilmsのレビュー・感想・評価

魂のゆくえ(2017年製作の映画)
4.1
 ニューヨークの片隅にひっそりと佇む「ファースト・リフォームド教会」では今日もエルンスト・トラー牧師(イーサン・ホーク)が熱心な信者を見守っていた。彼の賢者のような生活は、来る日も来る日も同じ生活をしっかりとこなすことで成し遂げられる。彼は一日の仕事が終わった後、机に向かい合う。今どきはパソコンに向かい合っても良いのに、彼は直筆で、書き間違いも気にしない。だが今日書いた日記も1年後には全て火にかけると決めている。この律儀なのだが、どこか神経症的にも見える牧師の何気ない生活は、真っ先にブレッソンの『田舎司祭の日記』を連想させる。人情派の牧師のどこか牧歌的な生活はある日、メアリー(アマンダ・サイフリッド)という名の女性がやって来たところから一変する。「夫の悩みを聞いて下さい」という問いに牧師は微笑みを浮かべる。

 牧師の仄暗い病巣は、メアリーの夫(フィリップ・エッティンガー)と会った瞬間から徐々に顕在化していく。環境活動家の夫は牧師に対し、「50年後の未来」がどうなっているか?語り掛ける。この世に赤ん坊を生み落とすことの意味を問われた牧師の頭の中に暗い過去がフラッシュ・バックする。毎日定期的に記録していた日記、手放せない胃薬とある日の血尿。夜の闇に吸い込まれるように目的のない旅を続ける牧師の姿は、監督の脚本作『タクシー・ドライバー』のトラヴィスにも近い。その引き裂かれるようなアンビバレントな感覚や苦悩は、ベルイマンの『冬の光』をも思い起こさせる。この世界の歪みに向き合い続けた牧師はやがて心のバランスを崩すが、そこには信じられないようなスピリチュアルな出来事が待っている。「マジカル・ミステリー・ツアー」に出向く2人の情景。性急なペースで進んで行く真に苛烈なクライマックスがただただ静謐で美しい。
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