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バハールの涙のnetfilmsのレビュー・感想・評価

バハールの涙(2018年製作の映画)
3.9
 爆発音と共に露わになる女性のクローズ・アップ、顔は砂にまみれ、横たわる女性はゆっくりと首を縦に動かす。白と黒の煙のスロー・モーションは永遠に終わりの来ない戦況を予言めいて伝える。クルド人の女性で弁護士のバハール(ゴルシフテ・ファラハニ)は、愛する夫と1人息子と共に充実した日々を送っていた。クルド人自治区に住む家族の元に帰省した夜、突如IS(イスラミック・ステート)の襲撃を受ける。息子を真ん中に川の字に寝る親子3人の姿とは対照的に、突如鳴ったスマフォのベル、不意を衝くような夜の訪問、逃げ遅れた家族の列、そこにISの兵士たちが襲撃する様子は思わず息を呑む。家族からは女と子供たちが引き離され、男たちは背中から処刑、女たちの絶叫音が辺りに木霊する。まさに一瞬の襲撃により、家族は分断され、バハールの身が脅かされる。本作はイラクのクルド人自治区で2014年8月に実際に起きた出来事に着想を得ている。イラク北西部のシンジャル山岳地帯にIS(イスラミック・ステート)が侵攻。ヤズディ教という独自の宗教を侵攻する人々が暮らす地域で、彼らの大量虐殺が目的だった。逃げ遅れた男性は処刑され、女性と子供たちは1人残らず捕らえられた。

 今作はフランス人の女性ジャーナリスト・マチルド(エマニュエル・ベルコ)とバハールの親交の物語に他ならない。マチルドは戦争写真家として各地を転戦していたが、シリアで破裂弾により、片目を失明した。マチルドとバハールはそれぞれ、大切な子を持つ母親同士だった。戦場の砲撃や爆発音などの破裂音により、PTSDを患ったマチルドは慢性的な睡眠不足に苦しんでいた。そんな彼女に寄り添うバハールの眼差しが印象的に映る。女性たちは性奴隷として売買され、子供たちは「小さき獅子たちの学校」と呼ばれるIS養成校で3歳から銃を持たされる。クルド人自治政府軍は抵抗部隊を組織し、女性の戦闘員だけの部隊もあった。バハールはその最前線で愛する我が子を探す。女の戦場の取材は初めてというマチルドの目は我々観客の目となり、子供たちを奪われた母親たちの歩みを伝える。家父長的文化に支えられたヤズディ教徒たちの因習への抵抗、喪失感と焦燥感に苛まれた女性兵士たちが力がまるで違う男性たちに立ち向かって行く。イスラム教の教えでは、「女性に殺されたら、天国へは行けない」と言う。人生で最も重要な30mを歩く女性たちの姿に、思わず涙腺が緩む。

いよいよ今夜です!! 
みんなで映画について語らいながら呑みましょう!!
21夜目はジョン・カーペンター特集&大新年会!!
2019.1.24.(木)21:00~03:00 『映画の日 21』
@Music Bar LYNCH  栃木県宇都宮市二荒町8-12
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