晴れない空の降らない雨

金の鍵 ブラチーノの冒険の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

金の鍵 ブラチーノの冒険(1959年製作の映画)
-
 なんか最近ピノキオが話題になったので、ロシア版ピノキオをば。原作はかの文豪トルストイ……と同姓同名の赤の他人が1936年に書いた童話で、『ピノキオ』の翻案というと聞こえはいいが、要するにパクリである。といって貶したいわけではない。著作権の考えが普及するのは比較的最近だし、国によっても違うわけで、世界中こういった事例には事欠かない(というか現代でも腐るほどある。さすがに訴えられない程度の差別化はしているが)。
 
 ストーリーは本家本元と同様、自分で話して動ける人形ブラチーノ(ピノキオ)が孤独な老人の家で誕生し、学校へ行くはずが人形劇へ行き、悪党の主人に捕まり、悪党のキツネとネコに騙され……といった序盤の筋はほぼ同じだが、次第に話は『ピノキオ』に負けず劣らず奇想天外な方向へ転がっていく。ブラチーノは捕まったり、逃げたり、戦ったりして、最終的に仲間とともに悪役を成敗する。この点は『ピノキオ』より常識的な結末だが、面白いことに本作ではブラチーノは最後まで人形のままで、老人と一緒に芝居小屋を繁盛させる。
 また、作中の「アンポンタンの国」なる悪夢めいた場所も興味深い。奇怪な住民たち、理不尽な命令をする兵士たち、そして腐敗した総督。童話ながら、官僚的なポジションやその腐敗が描かれるのが、お国柄というか何というか(悪役がブラチーノを捕らえてもらうとき、総督が靴を脱いで差し出すと、その中に札を突っ込む)。正直これソ連のことじゃないかと思ってしまうのだが……。
 
 この時代の大半のソ連製セルアニメーション同様、アニメーションやキャラクターはディズニーの模倣の域を出ていないが、それでも現れる国ごとの違いを楽しむことはできる。以前レビューしたように、時代が下れば『ゾールシカ(シンデレラ)』や『人魚姫』のように、芸術的にも明らかにディズニーと異なる作品が現れてくる。