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ミレニアム・マンボのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ミレニアム・マンボ(2001年製作の映画)
3.9
 トンネルのような陸橋の通路を女は右手に煙草を持ちながら颯爽と歩く。時に手を振りながら煙を吐き、後ろを振り返ってみせる女の姿は、新世紀の幕開けを高らかに告げる。リー・ピンビンの手持ちカメラは、そんなスー・チーの背中をスロー・モーションで切り取る。あまりにも印象的なシークエンスで今作は始まる。ミレニアムを祝う祝宴の余韻から彼女は自宅へと戻る。棒のようになった脚を抱えながら、キャミソールをベッドに脱ぎ捨てた女の姿は、フレームに浮き立つ白が印象的なブラジャーの上に赤のパーカーを羽織る。洗面所に籠もる彼女の姿を興味ありげに見つめる男の姿がある。男はヒロインをまるで今日会った女性のようにただただ見つめ、パーカーのチャックをゆっくりと下すのだが女にその気はなく、呆れた様子で目を合わす素振りも見せない。21世紀を迎えた台北。ヴィッキー(スー・チー)は、ディスコで出会ったハオ(トゥアン・ジュンハォ)と同棲中だった。彼女は高校を中退し、DJ見習いのハオは仕事もせずに毎夜クラブ通いで昼夜逆転の生活を送っていた。最初は楽しかった2人の自堕落な生活はどんどん荒んでいく。ヴィッキーは残りの50万元が尽きたら、彼の元を去ろうと心に決めていた。

 物語は10年後の彼女の視点から語られる。ハオの束縛はますます酷くなる一方だが、一向に生活は良くならない。怠惰な生活はタバコの煙が手放せず、殺風景な部屋には白い煙が充満する。ハオはヒロインの身体を求めるが、2人の間に希望の言葉はない。彼女の愛想が尽きるのが先か?それとも気になりだして愛想が尽きたのか?ヴィッキーの心にはやがてヤクザのガオ(ガオ・ジェ)が棲み始める。交友関係が広く、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせたガオは心底ガキなハオとは対照的で、彼女の心を優しく包み込む。ヴィッキーの「ここではないどこか」への憧れは北海道・夕張に帰結する。友人の淳(ジュン)と康(コウ)と連れ立って向かった初めての日本旅行。険しい雪道を車は走り、彼女は新しい雪の中に身体ごと飛び込む。白い雪は彼女の台湾の荒んだ生活をも浄化させる。おばあちゃんが営む小料理屋の出汁の染みたおでんの香り。ホウ・シャオシェンの視点はそんな古き良き日本の情緒を静かに切り取る。クライマックの懐かしい映画看板は険しい雪に覆われ、寒さの中を耐え凌ぐ。美しく侘び寂びを感じさせる情緒的な結びである。
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