牧野

万引き家族の牧野のネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

虐待を受けている女の子を家に連れ帰ったところから物語は始まる。その家に住んでいる人は家族のように見えて、物語が進むにつれて家族ではない人達の集まりだったことがわかっていく。本当の家族ではなかったけれど、いけないことだったけれど、その家にたどり着いた人の命と心は救われていた。温かくて海のシーンなんて本当の家族みたいで自然と涙が出てしまった。火傷の跡を慰め合う姿にも涙してしまった。家族全員が花火を見に縁側に出てくるシーンも鮮明に思い出せる。けれどやはりその家族は偽物で、長くは持たない歪な形なのだ。

リンの万引きがバレ店主に嗜められたこと、治の車上荒らしを見て祥太の心は成長していく。今の現状を変えたいと思った(のだろう)祥太がわざと万引きをし捕まったことで歪な家族は白日の元に晒される。映画を見た後なんとも言えない感覚になった。正しくて良かった、けれど正しさは無遠慮でそれだけが正解ではないのだ。

祥太は施設に入り学校にも通えるようになって良かった。少年のうちにやり直せて良かった。その一方で本当の家族の元に戻ったりんは(母親にNOと言える心の成長はあったものの)虐待の輪から抜け出せてはいないのではないか。

信代の「拾ったんです。捨てた人は他にいるんじゃないですか?」の言葉が重い。拾わなきゃ死んでいた。正しさはあの命を救ってなかったじゃん。けれど“お父さん”“お母さん”とは呼んでもらえないんですよ。歪に繋がっていた家族だから。あなたは何と呼ばれていたのか尋ねられ「何だかなぁ」と涙する信代も、万引き捕まったのはわざとだったんだと告白され離れてはじめて(バスの中から治には聞こえない場所で)「お父さん」と呼ばれる治も切ない。

ストーリーも台詞も演者も素晴らしかった。とても良い邦画を見た。
牧野

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