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ブレッドウィナー/生きのびるためにのTのレビュー・感想・評価

4.0
想像を絶する男尊女卑の世界。唯一の男手であった父親も娘に本を読ませていた罪(!)で逮捕されてしまう。女性だけでは外出すらさせてもらえない世界で、パヴァーナは髪を切り男装して街へ出ていく…。

タリバン政権下のパキスタンのお話で、当時を知る人から綿密に話を聞いて作られたそうで、デフォルメされたアニメ絵なのに、街の描写や人物が本当にリアルに感じられます。

印象的なのはパヴァーナが男装して街へ出たときの街の人の反応。当たり前のように物を売ってくれるし、女性として街にいる時には追われて刺さっていた視線もない、全く空気のように街を歩ける。商店に足を踏み入れてもいいし、仕事だってできる。その事実にパヴァーナは体験したことのない開けた未来に嬉しくなってしまう。

こんな悲しい嬉しさってあるだろうか。これはタリバン政権下のパキスタンの話ということで極端に感じられてしまうけれど、この何分の1かは日本にもあるはずです。満員電車に痴漢を気にせず乗れたり、仕事での障害も少ないことに、男性として社会で振る舞えたらどんなに開放感があるだろうか、と考えてしまいます。

物語は不当に逮捕された父親救出にむかっていきますが、パヴァーナが弟に話す寓話と重なりながら進みます。平時のアニメーションとは違い、寓話のシークエンスでは切り絵のような平面的なアニメーションに変わるのも楽しい。日本やアメリカのアニメーションを見慣れてる目にはエキゾチックに映ります。寓話の結末には苦しくなってしまいました。

胸に迫る苦しい話でありつつ、日本やアメリカ以外のアニメーションの独特の動きやデザイン、エキゾな雰囲気が楽しめる素晴らしい作品でした。ふ
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