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ファントム・スレッドのJTのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
5.0
細部まで縫製された上質さを持つ恐ろしいほど全てが美しく完璧な作品。圧倒的な美学を前に相応しい言葉が見つからない。

1950年代のロンドン、英国ファッションで有名なオートクチュールの仕立て屋で完璧主義なレイノルズと彼に見いだされた対照的な性格の元ウェイトレスのアルマの愛の物語。

冒頭の数分だけで惚れ込んでしまうような作品が稀にある。本作はまさにそれで、まるで身を包む美しいドレスが一本一本の糸を丁寧に織り成すように音楽と映像と演出や衣装が完璧に重なり合い、中身もルックスも引き立てる。有無を言わせぬ優雅な音楽と布の生地が擦れたり肌に触れる心地の良い音、咀嚼音やフォークやナイフなどの耳障りな生活音がとても印象的。レイノルズ演じるダニエル・デイ=ルイスとアルマ演じるヴィッキー・クリープスの演技は凄まじく、自分の中で映画史上最も熱くさせられて激しく心揺さぶられたカップルになった。

映像に漂う気品の中に混在するドロっとした男と女の関係性のそのギャップに呑み込まれた。愛が狂気へと変わりゆく様子にゾッとしながらも愛おしく、その狂気を求めてしまう人間の本能的なものが見え隠れして、布を着飾っていた男女が生身を曝け出すようになる瞬間に魅了された。ラブロマンスがドラマへと変化しサスペンスを絡ませてある意味一種のホラーへと変貌を遂げる。この構成が本当に見事なもので恋が愛に愛が何か別のものへと変化していく恋愛模様を表現した。男と言う生き物のと女と言う生き物。男はいつまでも母の影に囚われて温もりを求め、女は男の妻になり時に女に戻り母親にさえなる。男と女はおかしなまでに求め合って互いに織りなす。一緒にいるのかわからない時さえあるのに、鬱陶しく感じてしまうことさえあるのに、ふたりで暮らせば今までの生活や習慣が妨げられ、相手を拒んでしまうことさえあるのに、なぜこうも離れられないのだろうか。他人には理解できない何かがあるから、自分たちでさえわからない愛のカタチがあるから。愛は狂気へと変わり狂気は愛へと還る。愛に限りはなくどんな姿でも成りゆく。いつの時代でも変わらない愛の本質がここにあった。"恋をすることで 人生は謎ではなくなるのよ"

今まで沢山の愛の物語を観てきたけど。こんなにも驚きに満ちた作品にまた出会えて嬉しい。舞台は違うけど年代が同じで雰囲気が似た作品の『キャロル』が大好きな恋愛映画でしたが今作はそれを超えていきました。まさに脱帽です。

去年見逃してしまった映画
間違いなく2018年のベストに入る一本
2019 . 67 - 『Phantom Thread』
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