ジミーT

ラストマン・スタンディングのジミーTのレビュー・感想・評価

5.0
ダシール・ハメット「新任保安官」への原点回帰映画の秀作です。

セルジオ・レオーネ&クリント・イーストウッドの黄金コンビによる傑作「荒野の用心棒」が、黒澤明&三船敏郎の無敵コンビによる傑作「用心棒」の翻案であることは周知の事実です。
しかもその「用心棒」自体がダシール・ハメットの小説「血の収穫」を元ネタとしていることも知られた話。黒澤明自身も堂々たるもので「ほんとは断らなければいけないほど使ってるよね」と自分で言っています(注)。

いや、「血の収穫」が元ネタというより更にその原型である中編「新任保安官」が、というべきか。1920年代アメリカ。コークスクルウという街にふらりと現れた主人公が、対立する二つの組織を自滅させて、生き残りと1対1の対決をするという骨格は「用心棒」とほとんど同じ。
しかしレオーネもクロサワもタダ者でないのは、それぞれがそれぞれの元ネタを翻案しながら独自の世界を作り上げ、とんでもなく面白い映画を完成させてしまったことなんですね。

それから30有余年。

今度はウォルター・ヒル&ブルース・ウィリスの必殺コンビが正式に「用心棒」のリメイクとして参戦したのがこの映画ですが、原作リュウゾウ・キクシマ、アキラ・クロサワとしながら舞台を1930年代アメリカの田舎町にしたことで、「用心棒」を通り越してダシール・ハメット「新任保安官」の映画化と言った方がいいような作品になってしまった。
まさかウォルター・ヒルが「用心棒」の「正体」を暴いてやろうと考えたわけではないでしょう。偶然だとは思いますが、非常に面白い現象だと思います。

ダシール・ハメット→「用心棒」→「荒野の用心棒」→「ラストマン・スタンディング」→一周回ってダシール・ハメット→「用心棒」→「荒野の用心棒」→「ラストマン(以下・略)
いったいどこがスタートなんだ?何かタイム・パラドックスみたいになってきたぞ。


「黒澤明語る」
聞き手 原田眞人
1991年
福武書店

参考資料

「ハメット傑作集 1」
ダシール・ハメット・著
稲葉明雄・訳
1979年
東京創元社

全集黒澤明 第五巻
1993年
岩波書店

「ラストマン・スタンディング
オリジナル・サウンドトラック」
ライ・クーダー
1996年
ポリドール株式会社
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