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誘拐計画 隠された真実のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

誘拐計画 隠された真実(2015年製作の映画)
3.0
【グダグダな誘拐vsゴリゴリな交渉】
ナイジェリア映画を研究する中でナイジェリアの映画批評家Wilfred Okicheが"NETFLIX ISN’T THE SAVIOR NOLLYWOOD NEEDS"の中で、Netflixが世界配給権を持っているにもかかわらずナイジェリア映画業界に金を還元していない問題や、俗なナイジェリア映画ばかり配信されている問題を指摘している。確かに、この記事が指摘しているようにワガドゥグ前アフリカ映画祭コンペに選出された『Eyimofe』を配信していない件や、全体的に画作りが未熟だったりと問題は多いと思う。しかしながら、女性が活躍する映画が多い点は注目すべきポイントであろう。Netflixで配信されている作品はノリウッド映画の氷山の一角ではあるが、女性が社会的地位を獲得し、男性と対等に政治や法廷、ビジネスで渡り合う様子が何本も作られているのを観ると日本やアメリカよりも映画の中のジェンダー問題と向き合っている気がする。安易に男女逆転することなく、リアルな生活が描かれている。「幻のアフリカ納豆を追え!」ではナイジェリアに「主婦は家事を頑張るもので、調味料を使って時間短縮するのは怠けている」風潮があると聞いていたが、意外と女性の社会進出は進んでいるのではと思った。

シェフの男が、影に隠れて薬を呑む。この描写からフィルムノワールの香りがする。厨房でカップルが誘拐の電話をかける。迫真の演技によって、金をふんだくろうとする。無事に誘拐は成功し、廃墟のような場所にて電話をかける。その電話に出たのは女性だ。女性は屹然とした態度で、誘拐犯の要求する金額に対して値下げ交渉を始める。「2000万でどうか?警察にも言わないであげるし、恩赦も考えてあげよう。」値下げする母に対して誘拐された本人は、ショックを受ける。無論、誘拐犯に脅されているのもあるが、自分の命が目の前で天秤にかけられていい顔をするわけがない。交渉の末、身代金は3000万で決着がつく。

『アービトレーション: 交差する視点』でも原告である女性が、会社の株を賠償金のテーブルに挙げていたが、ノリウッド映画において交渉ごとは日常茶飯事のように見える。日本映画でここまで金額にシビアな交渉シーンはあまりない。アメリカ映画ですら、最初に提示した金額を払うか払わないかで終わる傾向がある気がする。その点、ノリウッド映画における金の話題は解像度が高く、『誘拐計画 隠された真実』では終盤で、「未来の人は言うだろう。古き良き時代の金は現実だったと。今カネは現実ではなく概念になりつつある。その変化にほとんど気づかない。」と貨幣論について語ったりする。

映画としての面白さは、暗くてグダグダしているのだが、金に関する生々しい会話には惹かれるものがあった。
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