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ビール・ストリートの恋人たちのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 年端もいかない黒人の青年は、少し年下の彼女の手をぎゅっと握りながら、ゆっくりと波止場へと歩み始める。「怖くないの?」という彼女の言葉を、男は大人びた表情で否定する。1970年代ニューヨーク・ハーレム。クレメンタイン・"ティッシュ"・リヴァーズ(キキ・レイン)は幼馴染で、3歳年上の恋人アロンゾ・"ファニー"・ハント(ステファン・ジェームズ)と幸せな日々を送っていた。女は愛し合った人の子供を身籠もるが、彼女が一番幸せな告白をする場所は、面会室のガラス窓越しだった。強姦罪という無実の罪で、獄中に入れられたファニーの表情は不安に満ちていたが、その知らせを聞いた瞬間、生気を取り戻す。彼女のお腹の中の子供が育つまでの10ヶ月間、ファニーは監獄を出ることが出来ない。2人の出会いは、幼少期に遡る。白いバスタブの中で、たくさんの泡に包まれ、笑顔を見せる2人の姿。それから成長し、玄関先でティッシュの母親に彫刻をプレゼントしたところから、2人は互いを男と女として意識してきた。ティッシュの家族は妊娠を喜び、ファニーの家族にも報告するが、ファニーの母親の反応は冷たかった。

 黒人作家であり、公民権運動家としても知られるジェイムズ・ボールドウィンの『ビール・ストリートに口あらば』を原作とする物語は、無実の罪で投獄された青年ファニーとその妻ティッシュとの重く苦しい新婚生活を描く。ファニーを監獄に放り込んだのは、黒人を忌み嫌う白人警官ベル(エド・スクレイン)だが、彼の黒人差別はキャスリン・ビグローの『DETROIT』や、スパイク・リーの『ドゥ・ザ・ライト・シング』のように容赦ない。そうでなくとも、22歳で芸術肌のファニーには、ティッシュと彼女のお腹の中の子供を養っていく力はない。生命の誕生の報告を、神の祝福として受け止めたリヴァーズ家に対し、実子ファニーの幸せな報告に笑み一つ見せないミセス・ハント(アーンジャニュー・エリス)の姿が自体の深刻さを物語る。そこからの両親、主に妻の母と夫の母、夫婦の父の三者三様の子供への愛が、神聖なる生の誕生に責任と尊厳をまざまざと見せつける。前作『ムーンライト』同様の出自を曖昧にされた生命の誕生は、それゆえに子供を受け止める黒人青年の強い手によって抱きかかえられる。
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