ウシュアイア

さよならの朝に約束の花をかざろうのウシュアイアのレビュー・感想・評価

4.3
織物を織って生きる伝説の長寿の種族イオルフの里はある日突然、人間の国に滅ぼされてしまい、イオルフの少女マキアは一人逃げ延びる途中に両親を亡くした赤子を拾い、エリアルと名付けて育てることになる。マキアは長老から人間より若い姿のまま長く生きるイオルフは人間から「別れの種族」と呼ばれて忌まわしく思われ、またイオルフも人間と関わると悲しい思いをするから関わってはいけないと戒められていた。普通の親子関係とは違うエリアルとの関係に葛藤するマキアの物語。


あらすじを読む、もしくは冒頭の10分程度でどんな話か見当がつき、しかも大方の予想を裏切らずに泣かせてくれるファンタジー作品。

以下、軽いネタバレあり。

ファンタジーにおいてエルフは一般にクールな種族として描かれることが多いが、その理由は長寿のエルフにとって人間の寿命は短く、イオルフの長老の言う通り、人間と深く関わると悲しい思いをするがゆえの処世術だったことがわかる。今度アニメ化される人間と亜人の寿命の違いから紡がれる物語として未完結ながらも傑作と名高い『葬送のフリーレン』のエルフの主人公フリーレンは「どうせ人間なんて早く死んじゃう」と達観さえしているし、様々なファンタジーで不死の苦しみなども描かれており、もしも他の人間よりもはるかに長い人生があったら必ずしも幸せとは限らないし、そういう人生をどう生きるのかを描くことで人生(人間)の本質に言及している。

人生が長かろうと短かろうと結局のところ、お釈迦様の教えの通り、愛別離苦に悩まされるがゆえに、愛する者との限られた時間を大切にしなければならないということになる。

本作では最初にイオルフの里を滅ぼしてしまうことで、主人公のマキアに人間と関わらない処世術を許さず、また孤独であるがゆえにエリアルに愛情を注ぐことで自分の生きがいにする生き方にせざるを得なくなっている。血縁の有無に関係なく、困難な状況において家族の存在は生きがいになるということは普遍的な人間の性質だろう。

また、エリアルが思春期を迎え、マキアの見た目が変わらないがゆえに周囲から冷やかされて気まずい思いをしたり、マキアの愛情を素直に受け取れなくなったり、とエリアルのとマキアの感情の機微が丁寧に描かれる。これも親の姿形がどうであれ、子どもはいずれ親元を巣立っていくので、子離れできないマキアとぎくしゃくしてくるのは当然である。

そしてエリアルもまたマキアに愛されたがゆえに奥さんや子どもを守るために戦い、愛することができる青年に成長しているわけである。

イオルフと人間は寿命が違うから、エリアルの人生が幸せだったら、見送ることになってしまっても、仕方ないじゃないかと思うが、それは理屈の話で、やはり先に子に死なれるのは親としては悲しい。

特殊な事情のファンタジーの世界であっても、人間の本質は変わらない。ファンタジーはむしろ人間の本質が描かれている作品こそ良質の作品なのだ。

同じファンタジーでも非現実的なキャラクターの主人公の『ヴァイオレットエバーガーデン』よりこっちの方が登場人物にリアリティがあっていいと思う。

あと、細かいところになるが、時間軸についても、エリアルの成長だけではなく、作中で文明の進歩と国家情勢の変化も盛り込まれていて、物語の時間の流れもきちんと感じられる脚本・設定もよい。

ただ、タイトルが回収されていない気がする。どなたかネタバレ設定かけた上で教えていただけたら助かります。

フォロイーさんたちの熱いレビューで動画配信で視聴したが、映像も素晴らしく、ちょうど今全国的にリバイバル上映しているので、鑑賞料金をケチらずに大画面で観ればよかった。何年かしてまたそうした機会があれば次は劇場で観たい。歳をとると受け止め方が変わるだろうか。
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