パイルD3

ある女流作家の罪と罰のパイルD3のレビュー・感想・評価

ある女流作家の罪と罰(2018年製作の映画)
4.5
「やわらかい手」のお金のために必死で働く主人公を見ていたら、見た目と年齢が近そうな「ある女流作家の罪と罰」のメリサ•マッカーシーを思い出しました。

全く売れなくなった女流作家が、部屋代も滞納するくらい超ド級の貧乏になるのですが、ある事から自分の特技をフル回転させて稼ぐ手段を思いつき、上昇気流に乗っかって…というお話。

「アメリカン・フィクション」にも似た、脚本の完成度が高いアイロニーコメディですが、同じく作家を主人公にしながらも、これは何と実話だと言うから驚かされます。

51歳のガサツな口の悪い独身女が、お金のために悪知恵と持ち前の才能を使って図太く生き抜こうとする姿を、ニューヨークを舞台に描く秀編です。

ここに登場するニューヨークは、スコセッシのニューヨーク裏通りではなくて、ウディ•アレン映画でお馴染みの場所や風景を思い浮かべると思います


【ある女流作家の罪と罰】

主人公はかつてベストセラーを出したこともある伝記専門の作家、されど現在はエージェントからも爪弾きにされるほど、アルコール依存症が進み、仕事も集中して取り組めないレベルの貧困に喘いでいる。

家賃を滞納しているアパートには、12歳の病気がちな老ニャンコちゃんと住んでいる。
どうやら彼女は同性愛者で、パートナーとは別れて今は一人暮らし。当然、食って寝るだけ、掃除は滅多にやらないようなやりたい放題では、生活は荒んでいく。
誰も悪くない、アンタが悪いの一語。

売れ残った「Beyond the Magic」(エスティ•ローダーの非公認の伝記)という本は、書店で75%OFFの捨て値で売られているし、部屋はハエが墜死しする程よどんでいる。

さて、落ちるところまで落ちた面倒くさがりの女性が、この窮地をどう脱却するか?果たして脱出出来るのか…??

(実話なので、ネタバレと言ってもたかが知れているかもしれないのですが、この後のヤバい展開は、良識や善悪の領域に侵入し観客はチョッといろいろ考えさせられる大事な部分なので、ここでは明かさずにおきます…)

原題の「Can You Ever Forgive Me?」(わたしを許せる?)は、彼女がこの一連の経験を記した自伝のタイトル。
アナタにわたしのことが許せるか?という問いかけの言葉で終わるのが、リー•イスラエルという人物の性格を表している。

ドラマの中でエージェントに、アナタもっと身なりを良くして、言葉遣いにも気をつけて、“ありがとう、お願いします“を言えるようになって…と忠告される。

実際には、Please Forgive Me“お願い、わたしを許して“といった殊勝な言葉は、飼い猫には言えても、他人に対しては間違っても口にしない、プライドが高くどこか気難しい人物だったのだろうと思う。

彼女のように、ズルズルと道ならぬ生活風体に陥って、口が悪いオバさんになるくらいならまだいい。
本当の性悪は、嫌味なほど冷血な言動を平気でするものだ。

実話とは言えども、そのあたりの悪のあり方の本質を心得たシナリオは、巧みな罪と罰のあるクライマックスを準備している。
彼女がある場面で口にする“人生最良の時“という言葉に、彼女の人間性と心あるストーリーのすべてが集約されている


《地味ながら素晴らしい主演コンビの件》

◉メリサ•マッカーシーは、アカデミー主演女優賞にもノミネートされたくらいリアリティのある人物像を作り上げた。
TVのシットコムで有名な人で、ジュリアン•ムーアが降板した後の主演オファーだったようだ。

◉飲み仲間からスルッと相棒となるゲイの友人を、おそらくキャリア最高とも言えるパフォーマンスで見せたリチャード•E•グラントも、同時に助演男優賞にノミネートされた。

このベテランバイプレーヤー2人の毒だらけの掛け合いが素晴らしく、何でもない会話でふと泣かせてくれるあたり、呼吸ピッタリの名演だった。


【小規模なネタバレ】※
彼女がこの後書いた自伝には、サブタイトルが付いていて
〜Memoirs of a Literary Forger〜
(文学文書偽造者の回想)とある。
ちょっと読んでみたくなった
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