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熱砂の秘密のたくのレビュー・感想・評価

熱砂の秘密(1943年製作の映画)
3.7
ビリー・ワイルダー監督のハリウッド・デビュー間もない作品で、第二次大戦下のアフリカ戦線でドイツ軍に一人紛れ込んだイギリス兵の起死回生の活躍がスリリング。映画公開の1942年当時の戦況を描いてて、この時点ではまだ大戦の結末が訪れてないし、ナチのホロコーストも一般に知られてないためか、陰鬱な暗さを感じさせないのが印象的だった。本作はサイレント映画「帝国ホテル」のリメイクとのこと。

アフリカ戦線でドイツ軍に攻められて敗残兵となったイギリス兵のブランブルが、命からがら現地のホテルにたどり着いたものの、ドイツ兵がやってきてホテルを接収するという絶体絶命の状況に追い込まれる。そこに爆撃で亡くなったホテル給仕のダヴォスの存在が都合よく登場し、ブランブルが彼に成りすまして九死に一生を得る展開。ここから窮地に追い込まれたブランブルが起死回生の活躍を見せていくのが見どころで、彼がロンメル将軍という他を圧倒する存在の隙を突いて重大な軍事機密を解明しようとするくだりに引き込まれる。これはこないだ観た「ミュンヘンへの夜行列車」にも重なる展開。

ブランブルがダヴォスに成りすますために足が悪くてうまく歩けない演技をするんだけど、これにはちょっと「痴人の愛」を思い出す。フランス人メイドのムーシュがダンケルクでのフランス軍への仕打ちからイギリス兵のブランブルに愛憎相半ばする態度で接してたのが、最終的に彼の大儀に共感して彼女が取る行動にはジーンと来た。

エーリッヒ・フォン・シュトロハイムがロンメル将軍役で出演し、不気味なカリスマ性を漂わせる。彼自身が監督・出演・脚本を務めた「愚なる妻」も不気味な役だったね。代表作「イブの総て」の7年前の出演となるアン・バクスターが、並みいる男どもに屈しない気丈な女性を演じてたのも印象に残る。主演のフランチョット・トーン(面白い名前!)が印象薄めなんだけど、「春の序曲」「幻の女」で主役級の役を演じてたのを全く覚えてなかった。
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