オトマイム

女王陛下のお気に入りのオトマイムのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.1
豪華なコスチュームと美術にため息がもれ、通奏低音のように響く弦や鳥の鳴き声や劇伴等々音の素晴らしさに酔いしれ、女優魂溢れる女たちの競演にアドレナリンは放出され、なんとも情けない男たちの佇まいに笑った。だれひとりまともな人間は登場しないけれど、そりゃあこんな時代のこんな世界にいたら頭がおかしくなってくるのも当然である。

そこそこ正統派の宮廷ドラマと見せかけて、あちらこちらに盛られた毒がしだいに回っていき人物模様が徐々にゆがみ誰もが共倒れになっていく展開・演出は見事だった。完璧な美の中にマーブル模様のように広がる気持ち悪さ。雇われ監督として起用されたランティモス監督(ですよね?違う?)が、一般受けするギリギリの線まで自身の色を落としこんだ絶妙なバランスではないでしょうか。
とくに気に入ったのは鳥狩りで吹き飛ぶ血しぶきと、オレンジ投げのシーン。それぞれアビゲイル(エマ・ストーン)のふてぶてしさと野心&しだいに頭をもたげる下品さの象徴のように思えた。

アン女王の人となりはまったく知らなかったけれど、こんな酷い人物像に描いてイギリス王室からクレームが来ないのかと心配になった。それにしてもフランスにしろイギリスにしろ、王室と政権が一致した時代はろくなことがないですね。