オトマイム

ぼくの小さな恋人たちのオトマイムのレビュー・感想・評価

ぼくの小さな恋人たち(1974年製作の映画)
4.6
ひょろ長い手足を持て余し気味にしていたオクテな美少年は誰かに恋していたのだろうか。周りよりも早く大人にならざるを得なかった彼の承認欲求が彼を背伸びさせたのか。ネストール・アルメンドロスによる映像に胸の奥底をつつかれて泣きたくなる。これはユスターシュ史上最高に美しく気品のある映画だと思う。ぜんぶは観てないけどきっとそうだ。

フランス映画には夏が似合う。夏の終わり、田舎道を歩く男女のグループ。さわさわと音を奏でながら揺れる草、まだ熱を帯びた体を撫でる生ぬるい風。淡い金色のひかりも、温度や肌触りやぼんやりした期待感までもが、まるで自分の思い出のように甘く苦く蘇る、あの夏の夕刻。

すでにアルコール依存で心身ともに損なわれていたユスターシュがこんなにも繊細でみずみずしい描写にあふれた作品を最後の長編として残した、それは映画の神様が降り立ったせいなのだと思わずにいられない。
前作『ママと娼婦』までの作品にその生活の破綻ぶりを、汚れっちまった悲しみをどうしても監督自身に重ね合わせてしまうけれど、これは汚れていない悲しみと郷愁なのだ。