小

コスタリカの奇跡 ~積極的平和国家のつくり方~の小のレビュー・感想・評価

4.0
<1948年に軍隊を廃止。軍事予算を社会福祉に充て、国民の幸福度を最大化する道を選んだコスタリカの奇跡に迫ったドキュメンタリー。>(公式ウェブ)

軍を持たなければその予算を教育や医療、環境に振り向けることができ、国民は幸せになれる。実際コスタリカは<地球の健全性や人々の幸福度、そして健康を図る指標「地球幸福度指数(HPI)」2016の世界ランキングにおいて140ヶ国中で世界一に輝いている>(公式ウェブ)。

しかし、こんな疑問がすぐに浮かぶだろう。<「でもさ、こっちが仕掛けなくても、もし向こうから来たときに、軍がないと『アチャー』ってなっちゃう…」>(イモトアヤコ「世界の果てまでイッテQ!」2016年7月3日放送分)。

国家の非常事態の際には国会議員の3分の2の賛成投票により、徴兵制実施及び軍隊の編成権限が大統領に与えられるほか、<イギリスの国際戦略研究所などでは、治安警備隊を含めた総「警察」力を準軍隊として扱っている。諸組織の予算も隣国のニカラグアの国軍の3倍近くあり、国境紛争を抱えるニカラグアはコスタリカが「『軍』を展開している」としばしば非難している>(ウィキペディア:「コスタリカ」より)という。

ということでコスタリカが非武装国家だなんてウソじゃないかという声もある。それでも個人的にコスタリカに見習うべき点があると思うのは、常備軍を持たずに社会福祉を充実するというその志だ。

志を貫き通すための“武器”は国際法と外交だ。紛争が起こると、物理的な武力で防衛して時間を稼ぐ一方、国際法に基づいて訴えを起こすとともに、他国に説いて回り賛意を取り付ける。コスタリカが国際社会から正当性を得ることで、紛争の相手国は孤立を避けるため矛を収めざるを得なくなる。

常備軍を置かない代わりに国民の健康、教育を充実して、国際法と外交で戦っていくという“戦術”。コスタリカが抱える貧困や麻薬といった難問を解決しようとする国民の意志が政治に反映されていくのも、こうした“戦術”の副産物だろう。

某軍事大国の“戦術”は真逆である。マイケル・ムーア監督の『シッコ』では次のように指摘していた。

・権力者が国民を支配する方法は恐怖を与え、希望を奪い、士気を挫くこと。権力側は厄介なことにならないようにするため、国民に教育と健康と自信を与えたくないのだ。

・貧困層は貧しく、士気を挫かれ、恐怖心があるため、命令を聞いて最善を祈るのが一番安全だと思うようになる。選択する自由があるといっても、借金苦に選択の自由はない。(貧困層は)希望を失い、投票しないのだ。

軍を持たない国は集団安全保障体制に加盟するか、大国に防衛を依存しなければ「『アチャー』ってなっちゃう」と思っていたけれど、コスタリカのような道があることを恥ずかしながら知らなかった。

日本で非武装中立が成立するとしたら、どのような道があり、そのために必要な志はどうすれば得られるのだろう、と考えてしまうドキュメンタリーだった。

●物語(50%×4.5):2.25
・無知を気づかせてくれた。

●演技、演出(30%×3.5):1.05
・構成は良い。お勉強系なので、ビデオの方が吉。

●映像、音、音楽(20%×3.0):0.60
・可も不可も、特に印象なし。

●お好み加点:+0.10
・一見の価値あり。
小