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テルマのnetfilmsのレビュー・感想・評価

テルマ(2017年製作の映画)
3.8
 荒涼とした森林、雪が降り積もった静かな街では、湖面に冷たい氷が敷き詰められている。いかにも北欧の田舎町で、テルマは父親のトロン(ヘンリク・ラファエルソン)に導かれるように鹿狩りへ向かう。数十m先に鹿は無防備に姿を現し、少女はそっと鹿の方を見つめているが、父親の向けた銃口は彼女に向けられている。いかにも不穏な空気を醸し出す物語は彼女が大学生になり、親元を離れる様子を映し出す。ノルウェーの首都オスロ、一人暮らしの部屋には今日も母親からの着信が鳴り止まない。一人娘を溺愛する両親の歪な愛情はある種異様なものにも見えるが、物語終盤に差し掛かり、その理由は明らかにされる。ジュリア・デュクルノー監督の『RAW〜少女のめざめ〜』と同工異曲のような物語は、血の匂いが充満した『RAW〜少女のめざめ〜』に対し、しんしんと降り積もった雪、プールの青、血の流れない少女たちの白い肌など、北欧らしい青白い色味がひときわ印象に残る。

 ノルウェーの田舎町の暮らし、荘厳な自然の中でキリスト教の厳格な家庭に生まれた主人公は都会での暮らしを夢見る。だが彼女はどういうわけか幼少期の記憶をまったく覚えていない。映画は彼女が纏う不穏な空気を幾重にも重ねながら、今にも暴発しそうな様子を漂わせながら進む。憧れのキャンパス・ライフ、癲癇持ちの少女に優しく話しかけるのは、同級生のアンニャ(カヤ・ウィルキンス)である。幼稚な同級生のたわ言に一切付き合おうとしないテルマ(エイリ・ハーボー)は、少し大人びたモデル体型の少女に恋をする。家族間の憎しみを浄化するような甘美なフェアリーテイル、ケン・ラッセルの『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』を想起するような点滅するストロボ、殺伐とした世界でのテルマの成長譚はデ・パルマの『キャリー』よりもイングマール・ベルイマンのトゲトゲした薔薇の針を思い出させる。最後の微笑みの意味は2人だけが知っている。
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