半兵衛

荒木又右衛門 決闘鍵屋の辻の半兵衛のレビュー・感想・評価

4.0
監督を担当した森一生によると脚本を担当した黒澤明が古くなりつつある時代劇映画を脱して新たな時代劇(その成果は2年後の『七人の侍』などであらわれる)を形成するため実験的に作られたプロトタイプだったみたいだが、今振り替えると目標を倒さんがため彼らが通る宿場町で主人公たち仇討ちメンバーが準備して待ち構えるという展開は10年後の東映集団時代劇を先取りしているし、実際の暴力事件を脚色せず史実にのっとり詳細に描いたり敵も味方も殺し合いをしたことがないため盲目状態になってみっともなく暴れる様子は20年後の東映実録路線に繋がる。そういった意味ではやはり黒澤明は天才なのだろう。

前半目的地となる宿場町に現れた主人公四人のただならぬ姿からそれぞれの回想を通して仇討ちの過程や人間関係を丁寧に描き、緊張感をじわじわと出していく展開が巧み。そこから後半、物語が一段落つくと仇とそれに協力する面々が顔を出し彼らが町を通過するところを機会を伺って待機するところで緊張がピークに達してからの壮絶な殺陣へという流れも上手い。

怯え緊張感とプレッシャーに押し潰されそうになりながらも仇討ちに参加する加東大介の奮闘ぶりが意地らしくて泣きそうになる、決行直前に同じ仇討ちメンバーの小川虎之助と緊張でひきつった顔を見合わせながらお互いに励まし合う姿も笑えるけれど胸熱。

そんな人殺しの緊張でグダグダになる敵味方のなかで三船扮する荒木又右衛門のみが肝が座っていてヒーローすぎないかと思う人もいるかもしれないけれど、実際このときの荒木はつとめて心を平静にし仇討ちに臨んでいたと記録にあるのでこういうバーサーカーは本当にいるのだなと感嘆するしかない(ちなみにこの激戦を潜り抜けた荒木は自分の未熟さを痛感し柳生新蔭流に入門し直したという…超一流の人間の考えることはよくわからない)。そして血みどろの激戦で一人重戦車のように走り回り、敵を蹴飛ばし斬り倒す力強さは三船敏郎にぴったりで荒木の存在感に説得力をもたらしている。

肝心の仇討ちの背後にある大名対旗本の政治的構図にほとんど触れていないため、小さくまとめあげた印象となっているのが残念だがそれでも工夫された殺陣の数々と緊張感に満ちた演出が堪能できる秀作に仕上がっている。

音楽を使わず最小限の物音で緊張感を高める演出や、敵が道を通るところからワンカットで隠れている三船敏郎のところへ向かったり緊張感で顔が固まる仇討ちメンバーのアップをタイミングよく撮るカメラワークがエモい。

あと斬られたのに死なず、ぶつぶつ仲間の悪口やら何やら言ってその場に倒れている敵の一人が怖い。
半兵衛

半兵衛