ベイビー

テキサスタワーのベイビーのレビュー・感想・評価

テキサスタワー(2016年製作の映画)
4.5
1966年8月1日、オースティンのテキサス大学時計台からの銃乱射事件。死者16名、負傷者33名の悲劇。

この作品は当時の実際の映像と当事者たちの証言を忠実にアニメーションで再現したドキュメンタリー映画です。

何も情報がないままこの作品を見始めた頃は、何を見せられてるのか分かりませんでした。映像も演出も凝っていて、最初はこれがドキュメンタリー映画だとも気づかなかったのです。

アニメ部分は実写のフィルムをトレースしてアニメに描き起こした"ロトスコープ"という技法を使っていますが、それを事件現場や当時の映像と巧く掛け合わせて、効果的に事件の実態を生々しく伝えてくれます。

普通この手の社会に影響を与えたドキュメンタリーや実話ベースの映画なら、犯人の犯行動機や犯行までの経緯を追ったりしますが、この作品はほとんど犯行について触れていません。

この映画は、約一時間半に及ぶ惨劇に偶然居合わせた人たちの群像劇。そしてあの惨劇の中、自分の命をかえりみずに人を助け、危険をかえりみずに犯人と戦った人たちの英雄譚として描かれているのです。

そういう彼らを見ていると、自分の人間性を確かめたくなります。

「自分は人間らしい行動が取れるだろうか」と…

そんなことを考えさせられる素晴らしい作品。

ロトスコープを用いた演出意図、理不尽な惨劇から人間讃歌へと運ぶ物語の構成、そして映像や音楽のセンスなど、画面から作り手の品が溢れ出ている見事な作品でした。
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