「我々は徹底抗戦する。途方もない暴政に対して。人類の犯罪史を塗り替える怪物に対して。それが我々の方針だ!」
ベルギーやフランスを陥落させ、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったナチスドイツに対し、唯一ガチンコ勝負を挑んだ男、チャーチルの人生録。
めちゃくちゃ面白かった!チャーチルってヤルタ会談とかバトル・オブ・ブリテンくらいのイメージしかなかったけど、こんな頑固な捻くれ者だったとは。とにかくチャーチルの「We shall never surrender!(我々は絶対に降伏しない!)」の信念がカッコいい映画で、ラスト4分間の演説シーンには痺れた。間違いなく彼の決断は世界の歴史を変えていて、「諦めず信念を貫くこと」の大切さをこの映画は教えてくれる。
作中ではヒトラーとの和平交渉を望む大臣たち(チェンバレンとか)にとにかく詰められるが、イギリスと全世界を守るため、決して戦う意志を曲げなかった芯の強さが素晴らしい。ただ何が難しいって、チェンバレンたちも本気で国のことを考えて宥和政策を提案していること。チャーチルと大臣たち、双方に正義がある。外務大臣ハリファックスの「兵士を無駄死にさせることは愛国心じゃない!」という怒りも納得だったし、結果勝てたから絶賛されているだけで、負けていたらチャーチルはイギリス史に残る大罪人になっていたんだろうなと。ただそれゆえに、この決断ができたことが余計に凄いと思ってしまう。
昔の日本も戦争に勝ててたらこうなれたのかもしれないけど、ダンケルクでの大救出作戦しかり、前線の兵士たちを何としてでも助けようとする意識には大きな差があったんだなと感じた。カレー沖で時間稼ぎに使われた兵士たちは本当に可哀想だったけれど、時に非情な判断も下さなきゃいけないのがリーダーなんだなと。
内容は割とドキュメンタリー風だけど多分にフィクションが含まれているらしく、「えっ?これ本当にあったの?」と思うようなシーンもちょこちょこ入っている。後半の地下鉄に乗るシーンや国王と自宅で会うシーンとかは完全にフィクションらしいけど、ただ個人的にはそのシーンがどちらも最高にアツかったので良しとしたい。秘書(タイピスト)との関係が変わっていく描写も素敵。
あとはとにかくゲイリー・オールドマンの演技が素晴らしくて、身振り手振り喋り方の全てがチャーチルにしか見えなかった。完全に憑依してるレベルで、演説シーンのセリフの力強さとか異常。そりゃ主演男優賞もとるわ。見た目もそっくりだったので、特殊メイク担当の辻一弘さんの腕も素晴らしさも讃えたい。
本筋とは関係ないけど、最後のチャーチルの演説はウクライナのゼレンスキー大統領に公式に引用されていて、歴史は繋がっているんだなと改めて感じさせられた。
以下、セリフメモ。
「野党が認める首相候補は1人しかおらん」
「…まさかあいつか?」
「一発で聞き取れないタイピストなどいらん!!」
「権力者は思いやりを持たないと。皆に尊敬される首相になって」
「若い時に首相になりたかった。若さを失った今、知恵だけが頼りだ」
「大変な時期に首相になられた。大仕事です」
「私たちの小さな犠牲が大義のために役立った」
「乾杯だ!"ヘマをやらんように!"」
「"ヘマをやらんように!"」
「閣僚には伝えたが、国会でも申し伝えよう。私が差し出せるのは、血と労苦と涙、そして汗だけだ!」
「ベルギーとオランダは陥落寸前です」
「まずはフランス軍の抗戦を支援する。フランスを救うのだ」
「チャーチルは口の達者な役者なんだ。演説は上手い。だが現実的じゃない。1日に100のアイデアを吐き出すが、そのうち96は危険だ」
「ご存知ないかもしれませんが、首相のVサインは庶民の間では違う意味を持ちます。"クソくらえ"…です。裏返せばVサインに」
「ダンケルクの兵士たちを海路で脱出させる間、敵の注意を逸らす。可能か?」
「4千人が死ぬ」
「30万人を救うためだ!」
「自殺行為だ」
「私が全責任を負う!何のためにこの椅子に座ってる!」
「陸軍は壊滅。侵略は目前だ。現実的な判断を…」
「我らは海洋国家だ。青銅器時代からずっと。ドーバー海峡は我らの防衛ラインだ。ドイツ軍は海を知らん。彼らはまずこの島に辿り着かねばならんのだ」
「民間の船を集められるだけ集めろ。ヨット、プレジャーボート、フランスまで辿り着ける船なら何でも」
「私は嫌われている。ガリポリの戦い以来信用されてない」
「戦争に負けるより闘いを諦める方が恥だ」
「兵士を無駄死にさせることは愛国心じゃない」
「この先何人の独裁者にすり寄ってやりたい放題させる気だ?いつまでだ?頭を食われながら虎に道理を説くことはできん!」
「君が和平交渉を拒否するなら私は辞任する。君の選択だ。交渉か私の辞任か、24時間で決めろ」
「カレーでは守備隊が敵を引きつけ、ダンケルクへの侵攻を遅らせてる。両地点とも完全包囲された状態だ。もし1割の兵士を救出できたら奇跡だと言われてる」
≪しかしながらカレー部隊の救出は行われない。繰り返す。救出は行われない。≫
「全世界があなたの肩にかかってるの。その心の葛藤が、あなたを鍛えてきた。この時のためよ。欠点があるから強くなれる。迷いがあるから賢くなれる」
「勇敢に戦って敗れた国はまた起き上がれるか。逃げ出した国に未来はない」
「もはや戦時内閣において、徹底抗戦を支持する者はおりません」
「…私は君を支持する」
「告白するが、初めは君に対して疑問があった。だが君の首相演説を誰より恐れたのは、アドルフ・ヒトラーだ。あのケダモノを怯えさせる男を、私は信頼する。敵と戦おう」
「史上最大の民間戦部隊だ」
「提督、ダイナモ作戦を開始せよ」
「首相が消えました」
「何を見てる。地下鉄に乗る首相がそんなに珍しいか?」
「もし敵がロンドンの街中に現れたら君たちはどうする?」
「戦う!!」
「ではこれはどう思う?もしも我が国がヒトラー氏に頭を下げて、イギリスに好ましい条件を引き出し、和平協定を結んだとしたら?」
「NEVER(ダメです!!)」
「これから閣外大臣に向けて演説する。興味のある者は誰でも聞いてくれ」
「我々がナチスに屈したらどうなる?空には鉤十字がはためくのだ。バッキンガム宮殿に!ウィンザー城に!この国会議事堂にも!」
「この国の長い歴史が途絶えるのなら、それは我々が自らの血にむせびながら、血に平伏すまで戦ってからだ!」
「我々はフランスで戦う。海で、大洋で戦う。自信と勇気を奮い立たせ空で戦う。いかなる犠牲を払っても祖国を守り抜く!!断じて降伏はしない!!」
「気も変えられない奴に国が変えられるか」
「何が起きた?」
「彼は言葉を武器に変え、戦場に乗り込んだ」
≪ダンケルクの30万人の兵士のほとんどが、チャーチルの艦隊によって故郷へ運ばれた。5年後の5月8日、連合国はドイツに勝利した。その年の後半、チャーチルは総選挙に負け退陣した。≫
"成功も失敗も終わりではない。肝心なのは続ける勇気だ" ─ W.チャーチル