しの

ワイルド・スピード/ファイヤーブーストのしののレビュー・感想・評価

3.4
車の扱いも命の扱いも過去最大に軽く、これまで僅かにでもあった「世界を救うため」という大義名分すら端に追いやられ、最早ドムがファミリーアンチと戦っているだけ。つまり畳むためだけの話でしかない。映画はどこまで開き直れるか、の実験を見ているようだ。

前々作でキャラクターの扱いに怒り、前作で開き直りに呆れ果てたが、本作はもはや清々しさすら覚える。というのも、ミドルクレジットでとうとう「これはプロレスですよ」と宣言したからだ。ここまで振り落とされずに付き合ってきたなら、もうお互いそういう姿勢で行こうやと。あれが”宣言“だと思うのは、あれを勿体ぶったクリフハンガーにする意味がシリーズだけを見ていても不明だからだ。

このようにして現実のプロレスすら利用し、キャラクターが集まって曲芸をすれば嬉しい楽しい、を最大化する姿は、「即物的な快楽成分のみ抽出したMCU」とも言えるだろう。思えばアベンジャーズ的構想を先に実現していたのが本シリーズだったわけで、それをあの手この手で継続しインフレさせる理由を作っていたのが前作までだとするならば、それを畳む際にIW的作りを追従するのは必然なのかもしれない。

しかし、それをプロレスでやるというのは前代未聞だ。ただMCUとは異なり、本シリーズはソープオペラ的作劇(やろうと思えば永遠に作品を続けられる後付け設定)を積み上げてきたわけで、それでIWをやろうとするとまぁこうなるかと納得はする。サノスを主人公にするみたいな芸当はできないので、キャラとアクションの物量で解決するしかない。なので、自分は8以降では何だかんだ一番納得してしまったというのが正直なところだ。

ただ同時に新たな疑問も生まれた。新規は振り落とし、プロレスとサーカスに徹する。それで前人未到の快楽主義に連れて行ってくれるなら一定の価値はあるかもしれないが、正直そこまでの快を感じなかった。

まずアクションについて言えば、ガラス張りのフィールドが用意された時点でどうなるかわかるし、傾斜のついたダムが用意された時点でどうなるかわかる。そして実際その通りになる。いくら物量があっても、いや物量があるからこそ機械的で味気なく感じてしまった。過去作で見たようなカーアクションを反復するのは半ば意図的なのかもしれないが、それをドラマに活かせていないので単なる既視感にしかならず。

一方でキャラクターにしても、そもそもダンテがドムを苦しめることに固執する割にファミリーをバラバラにすることに計画性がなく、4方向に別れる意味が薄い。結果、切迫感は薄く、なかでもローマン一行のパートは虚無に近くなっている。ここがヌルいとプロレスにも浸れない。確かに、便利ワード“ファミリー”で何でもアリにしてきたドムにダンテというアンチをぶつけるのは良いし、自分は『MEGA MAX』なんてそれこそチンピラの所業としか思えなかったのでここを拾うセンスも褒めたいが、彼も家父長制依存のキャラとなると対立にならない気がする。

こうした理由から、ダンテを悪役としてあと1作(もしくは2作)引っ張った所でもたないと思ってしまう。いずれにせよ快楽主義のプロレスとしても弱いと思うので、これでは結局「ああみんな揃って爆発してよかったね」と、自分のなかでは影薄く終わりそうだ。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】人によっては怒り爆発?マジで終わらせにきた『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』 https://youtu.be/Lx-mOMQ1B0w
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