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嘘八百の教授のレビュー・感想・評価

嘘八百(2017年製作の映画)
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普段観ないタイプの映画なのだが、期待値が低かった分とても楽しめた。
日本映画の「コメディ=喜劇」は、いわゆる「お笑い」全盛の現代だと完全に廃れ切っているジャンルだと勝手に誤解していたが、少なくとも本作はその「コメディ」的な要素と画面作りに関しては非常に端正につくられている。

「関西」縛りのテーマで、その純度とテイストを抽出するかということで、キャスティングのバランスも的確。
題材的に「テレビ的」になりそうな部分を、関西弁による「しゃべくり漫才」のようなトーンではなく、比較的オフビートな会話劇で展開することで回避している。
そのいわゆる「ネタ見せ」的な笑いにしていないだけ非常に好感が持てる映画。

そして、本作を観るきっかけになったのは、主演の中井貴一のコメディ俳優としての魅力に尽きる。
もちろんシリアスな演技も凄みがあるのだが、とにかく「笑い」の間であったり、テンポであったりがとにかく的確。
笑わせにかかるようなシーン以外の数秒のところで細かに可笑しさを出している。
特に、シャワーを浴びながら上機嫌で歌いながらゴボゴボ言っているところや、不機嫌ながらやたらとすき焼きを食べまくっているところなど、繰り返し観たくなる。

前半はとにかく主人公の小池を演じる中井貴一も魅力的なのだが、相棒になる野田をを演じる佐々木蔵之介も出自が関西出身であるところがとても活きていて方言の微妙なニュアンスまではわからないが、ドヤドヤしていなくて非常に観易い。

日本映画はその規模感的にもあまり物語のスケール感が出せない分、俳優たちの演技の魅力に比重が大きくなるが、その点ではその規模感に合った的確なキャスティングでストレスがない。

ただ最高に面白いのが前半だけで、終盤のいわゆる「コンゲーム」的な展開になると、正直捻りがないというか、敵役の棚橋(近藤正臣)との攻防も演技力でカバーされつつも、脚本の力による物語の力強さに欠けている。
特に、ラストの結婚式からの件は、はっきりと蛇足。
期待せずに観たので面白かったが、逆に脚本の練り込みがしっかり行われていれば、と思うととても残念。
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