おれさま

羅生門のおれさまのレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
4.5
"分かんねえ さっぱり分かんねえ"

雨降りしきる羅生門。
雨宿りをする旅法師と杣売り。
その元に一人の下人。

世界に名を知らしめた黒澤明監督作品。
そして、名作を生んだ1950年代。

原作は芥川龍之介『藪の中』であり、黒澤明監督の解釈が肉付けされた作品。そこには、題名ともなっている原作『羅生門』も深く関わっており、日本を代表すべき近代文学史のハイブリット作品とも言えます。
おそらく原作を想像してみた方々は異なる内容により面食らうかもしれませんが、エゴイストと、悪に対する悪の正当化という部分は大きな根幹を占めるので違和感はないでしょう。

本作を知っている方々なら言わずもがな。殺人事件の複数目撃者からなる、嘘か誠か、三者三様のお話。いまでは多く使われているであろう手法ですが、古くは今昔物語、平安時代から既に考えられているようで。これを時代に反映し、作品として執筆した芥川龍之介は次元が違う。

映画作品としても傑作。黒澤明の堪能。
ねずみ色を加えた白黒映像こその迫力。そして陰と陽。
役者の鬼気迫る演技。多襄丸の愛くるしさが伝わる三船敏郎の狂演、京マチ子演じる真砂の覚悟の目力。
監督の得意とする静と動の表現や光のコントラスト。役者の誇張された感情表現。
映画に夢中な、おれがいる。

結末、黒澤明監督なりの結論も。
敗戦国として、苦しんでいた日本に対するメッセージ。他者を信じることの必要性を説き、この国に必要なことはハッピーエンドと。
個人として、もちろん黒澤明監督のおっしゃる意味も一つ。けれどそれで終わらせたいわけでも無かったのでは。
これをどちらに捉えるか。
観る側の人間の本質も試されているのでは。
それも一つ、羅生門の最後の言葉に。
芥川龍之介リスペクトもあった内容にも読み取れました。

画面いっぱいに魅力を伝えてくれる映画界の宝、世界の黒澤。日本に生まれて良かった。

"下人の行方は、誰も知らない"
原作『羅生門』、より。
おれさま

おれさま