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オレの獲物はビンラディンのドントのレビュー・感想・評価

オレの獲物はビンラディン(2016年製作の映画)
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 2016年。スゴい作品なのかもしれないが、そうでもない気もする! 2004年のアメリカ、「米軍はまだビンラディンを発見できておらず……」というニュースに憤る大工のオッサン・ゲイリーの目の前に、神が出現。「はっ! 神様!」「お前はパキスタンへ行き……ビンラディンを捕らえねばならぬ……」「わかりました!」かくしてゲイリーはビンラディンをひっ捕らえるため驀進するのであった。
 オープニングのナレーションいわく、ほぼ、だいたい、あるいは部分的に真実の物語であるという実録映画。人を食った導入であるが、この人は実在していて概要はこの通りである。失業中で、酒場で愚痴り、透析を受けていて、「お前外国の製品買うんじゃねーよ!」とホムセンで客に怒鳴るちょっと困った愛国者のオッサンの話である。
 このオッサンが神様に言われてヨットやハングライダーを使い日本刀を装備していざビンラディンを倒しに行くわけだが、大工以外はノースキルゆえ簡単にはいかない。最初は生温かく笑っていられるものの、トライ&エラーを重ねていくうちに謎の応援心が芽生えてくる。困ったオッサンだが間違いなく「悪」ではないからだ。映画の半分過ぎで(普通に空路で)パキスタンに到着する場面では不思議な達成感がある。
 この人、コミュ力はあるのですぐ仲良くなるし、郷に入っては郷に従えで「俺様はアメリカ人だぞ!」と威張ったり脅したりもしない。なんだかナイスなオッサンが頑張っているように見えてくる。そういえば物語序盤では高校の同級生でシングルマザーをやっている女性と再会しイイ感じになっている。ビンラディンなんか捨て置いて彼女とくっついて真面目に働けばいいと思う。
 しかし神様からの言葉が脅迫の域にまで達することもあって、ゲイリーはやらねばならぬと思っている。男はやらねばならぬ時がある。止めてくれるな恋人よ! 背中の国旗が泣いている! ビンラディンさえ捕まえれば全てが丸く収まるのだ! 中年男性がパキスタンをうろついているだけなので見つかるはずもないんだけど!
 こう観ていくと映画は「おかしな中年男性をニヤニヤ眺める映画」ではなく、いやそれであると同時に「愛国心や正義や復讐心に駆り立てられる国」の戯画化としても立ち上がってくる。戯画化というか実在のオッサンなので縮図というか濃縮還元というか、だいたいそんな感じ。
 原題は「一人きりの軍隊」。このオッサンと米国の軍隊や諜報員にいったいどれほどの違いがあるだろうか? ほら母国では恋人と連れ子が首を長くして待っているし(※このふたりは創作だと思う)、兵隊さんと何の違いもないじゃないか! どうだ!?
 ……そんな挑発的な問いすら含まれているような気がする。気のせいかもしれない。
 2023年ならば「ホムセンで変な人いた」と動画を撮られて差別だ、白人ナショナリストだと吊し上げられて(まぁ事実そうなので……)終わっちゃいそうな人物である。だからこそ今、「多様性」と言うならば、こういうブルーカラーで愛国者で狂……ちょっとおかしな白人のオッサンを掬い上げるような映画に光が当たってもよいのではなかろうかと思う。ニコラス・ケイジはいつも通り全力で(ゲイリー本人に寄せた)演技をしていて、やはり立派な俳優だと思った。
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