RAY

夜は短し歩けよ乙女のRAYのレビュー・感想・評価

夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)
3.7
“或る夜のラブレター”


不思議な映画でした。
観終えた後、たしかに「面白かった」と感じた筈なのに、どこがどう面白かったのか全く答えられない。
だけど、間違いなく面白い映画なのです。
そんな不思議な感覚の映画でした。


この映画は間違いなくラブストーリーです。
だけど、その愛は、何も人と人との愛だけを描いているだけではなくて、様々なところへ向けられています。
お酒であったり、会話であったり、言葉であったり。
他にも、文学であったり、歴史であったり、縁であったり、神話であったり。
京都であったり。
森見登美彦さんと言う小説家がいかに“日本”の様々なところ(それは理論的なものから感覚的なものまで)に目を向け、愛しているのかが感じられます。

映画として面白い部分は、いくら様々なものに愛を向けている等と綺麗なことを言っても、精々、「奇想天外だった」程度の感想で終わってもおかしくないのですが、奇想天外であるだけでなく、しっかりとラブストーリーとしての結論が描かれている点だと思います。
ただし、世界観が非常に独特である為、苦手な方はひたすら苦手と思われてもおかしくない作品でもあると思います。


物語で描かれる“一夜”はたしかにファンタジーです。
だけど、夢物語みたいなものだけをファンタジーと呼ぶのでは決してないと思います。
はじめてのお酒も、知らない街や光景も、もちろん人も。
それらを特別だと思えたのなら、それはもうファンタジーだと呼べるのかもしれない。
そして、それらにそれぞれ、愛が感じられるからこそ、ファンタジーがファンタジーとして成立するんじゃないでしょうか。

ここに描かれたすべてに愛が満ちていて、それはまるでラブレターでも読んでいる様な。
ちょっと小っ恥ずかしいし、妄想だってしてしまうんだけど、目一杯の愛が詰まっている。
好きだってことに理由がないこともある様に、不思議な気持ちになることこそがファンタジーへの誘い。
そんな作品だったんだなと、この映画を噛み締めた今、思っています。


観て良かった。
RAY

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