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廃墟の群盗のKientopp552のレビュー・感想・評価

廃墟の群盗(1948年製作の映画)
5.0
 この異色の西部劇の原案は、W.シェークスピアの作品『テムペスト(大嵐)』を土台に自由に翻案したものであると言う。こう言われて、なるほどと思い当たる部分がある。なぜなら、映画の始めの銀行強盗の場面、騎兵隊に追われる、いかにも西部劇ならではの追撃場面、そして、カルフォルニア州にあるDeath Valleyを突き抜ける逃避行と、映画の3分の1ぐらいまでの、テンポのよいストーリー展開の前の方の部分と、本作の原題である「Yellow Sky」という砂漠の真っただ中にあるゴースト・タウンに銀行強盗団がようやく辿り着ていてからの部分とでは、語りのテーストが違ってくるからである。

 そこで、『テムペスト(大嵐)』のあら筋を調べてみた。ウィキペディアによると、以下のようになる:

 「ナポリ王アロンゾー、ミラノ大公アントーニオらを乗せた船が大嵐に遭い難破、一行は絶海の孤島に漂着する。その島には12年前にアントーニオによって大公の地位を追われ追放された兄プロスペローとその娘ミランダが魔法と学問を研究して暮らしていた。船を襲った嵐はプロスペローが復讐のため手下の妖精エアリエルに命じて用いた魔法の力によるものだった。

 王の一行と離れ離れになったナポリ王子ファーディナンドは、プロスペローの思惑どおりミランダに出会い、2人は一目で恋に落ちる。プロスペローに課された試練を勝ち抜いたファーディナンドはミランダとの結婚を許される。

 一方、更なる出世を目論むアントーニオはナポリ王の弟を唆して王殺害を計り、また島に棲む怪物キャリバンは漂着したナポリ王の執事と道化師を味方につけプロスペローを殺そうとする。しかし、いずれの計画もエアリエルの力によって未遂に終わる。」

 G.Peck演じるStretchは、ここでは、ナポリ王アロンゾーとその息子ファーディナンドを併せた人物であろう。故に、Stretchは、強盗団を率いており、Yellow Skyに到着するや、彼は、Constanceを演じるA.Baxterに一目惚れするのである。Constanceの祖父が、『テムペスト』におけるプロスペローであろう。こうして、劇における「絶海の孤島」こそが、Death Valleyという海に囲まれた「孤島」なのである。本作における、R.Widmark演ずるところの悪役Dudeとは、こうなると、プロスペローを追放したミラノ大公アントーニオと怪物キャリバンを併せた存在である。こう読み解いていくと、本作は、非常に面白く、制作年の1948年という時代に、既に正統ウェスタンをひねくる作品が撮られていたことに敬意を表する。
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