ブルームーン男爵

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

3.8
台湾ニューシネマの名匠エドワード・ヤンの代表作。実際の「牯嶺街少年殺人事件」を題材にした長編映画である。

評価が高かったので、ほぼ4時間の長尺ゆえ躊躇したが観てきた。まるで主人公の人生の関係者になったかのように親近感を覚え、彼の人生を追体験するようで、見入ってしまった。

台湾が舞台だが、日本が統治していたこともあり、家屋は日本風で、家族描写は小津安二郎監督の作風を想起させる。日本家屋や旧日本軍将校が残した日本刀などに日本の影響が見て取れる一方、音楽はアメリカの影響が大きいことがうかがわれ、大国の影響下の当時の台湾の様子が繊細に描写されている。

本省人の外省人(大陸から渡ってきた人々)への差別だったり、少年の学業・受験のプレッシャー、少年同士の抗争などは様々なことがストレスとなり、主人公のまだ未熟な独占欲が、彼を凶行へと走らせる。この淡くも微細な心理描写が4時間にわたり徐々に描写され、そしてラストにあふれ出す。

光と闇の描写が綺麗と本作は言われるが、たしかに光と陰影が絶妙に使い分けられており、まるでレンブラントの絵画。主人公が手にしている懐中電灯は近くを照らしてくれるが部屋全体は照らしてくれない。これは主人公の見えている世界の偏狭さを象徴しているように思われた。

それにしても私は縄張り争いやら、女の取り合いやら兄弟の契りみたいな、不良少年(チンピラというかヤンキー)的な感覚が乏しいので、そこらへんはかなり冷めた目線で見てしまい共感できなかった。そして、さすがに4時間もあると途中で眠くなってしまい、2度ほど短い眠りに落ちてしまったことは白状せざるを得まい。

ただ台湾映画史において重要作品であることは疑いようがなく、数多の映画ファンを唸らせる名作である。