針

田園に死すの針のレビュー・感想・評価

田園に死す(1974年製作の映画)
3.5
寺山修司の映画の代表作だそうです。自分は以前観た『書を捨てよ町へ出よう』のぐわんぐわんのカメラワークに気持ち悪くなってしまったのですが、あれと比べるとこちらはググッと洗練されて見やすくなってる気がしました。とはいえ自分にはやっぱり長く感じる映画ではあったかな……。

監督の寺山修司は元々短歌を作る歌人として出発したあと、演劇やったり映画をやったりマルチに活躍した人なのですが、これは彼が自分自身を題材にして作った、私小説(わたくししょうせつ)ならぬ私映画(わたくしえいが)という感じの作品。
劇中では自らの短歌が要所々々で引用され、それにインスパイアされるように青森らしき土地で暮らす少年=寺山の分身の混沌とした思春期が描かれていきます。
恐山などを中心とした、日本の土着的なイメージを用いたシュールレアリスム映画みたいな印象。現実ではありえない突拍子もないイメージが次々登場する感じはわりと好き。ともあれ、それこそアングラ~という雰囲気は感じますね。

寺山修司の歌集は前に読んだことがあるのですが、抜けるように爽やかな青春の歌と同時に、この世に対する暗い呪詛のような歌も多くて、この映画は後者のイメージを援用しながら屈託まみれの呪われた思春期として自身の虚像を描いていきます。特に中盤から非常にメタフィクション性が強くなって興味深いところもあるんだけど、やっぱりストーリーの密度がさほどでもないので個人的にはウームという感じ。イメージのみでもかなり観られる作品ではあると思うのですが、やっぱり寺山修司を何にも知らない人が観たらちょっと分からん映画なのではないかとも思う……。全編これ楽屋落ちみたいなものではあるし。

製作当時はわりと先鋭的だったのかもしれないけど、この手のメタ的で自己言及的な演出っていま観ると正直ちょっとナイーブすぎるかなーとは思ってしまいました。筒井康隆の古めの小説とか読んでも同じように感じることがあるのですが。

でもラストショット含めて非常に印象的な絵に満ちた映画ではあるかなーと。この方の映画に触れる際には『書を捨てよ』よりこっちからのほうが良さげ。
針