りょう

彼らが本気で編むときは、のりょうのレビュー・感想・評価

彼らが本気で編むときは、(2017年製作の映画)
3.2
 性的マイノリティのなかでも最も迫害されやすいトランスジェンダー女性を主人公に日本で映画を制作するなんて、2024年の現代ならともかく、2017年では相当にリスクがあったと思います。
 男女ともに、同性愛をテーマにした映画は、日本でもちゃんとした物語のものが目立ってきましたが、依然としてトランスジェンダー女性は差別用語とともに“笑い”のネタにされる風潮があります。この作品がそういう傾向にならなかったのは救いですが、荻上直子監督の作風になじんでいなかった印象です。育児放棄という児童虐待も重要な要素になっているので、もっと辛辣に演出すべきでした。トモの境遇なんかは、こんな軽妙なタッチで描いていいはずのない壮絶なものです。
 その一方で、こういうテーマの作品を気軽に観られるようにしたという効果も否定できません。当事者たちは辛い心情であるはずなのに、それを普通の日常生活になじませているので、誰もが“自分ごと”として共感できるのかもしれません。
 リンコを演じた生田斗真さんは、仕草も容姿も完璧にこなしていて、普通に街ですれ違ったら、女性としか思えません。他のキャストも役柄にふさわしい演技は悪くなかったです。
 ただ、おそらく意図的なもののはずですが、登場人物は女性が中心です。シングルマザーばかりで、“父親”という概念がとことん排除されています。毒親のヒロミやレイシストのナオミが強烈ですが、“女性の最大の敵は女性”という定説を強調したかったのでしょうか。ちょっと疑問でした。
 それにしても、門脇麦さんは、こんなチョイ役でも抜群のインパクトがあります。リンコの職場の同僚で、彼女と対照的なキャラだったので、もっとうまく登場させてほしかったです。
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