半兵衛

叛乱の半兵衛のレビュー・感想・評価

叛乱(1954年製作の映画)
3.7
「二・二六事件」を扱った映画としては後輩にあたる「動乱」や「226」に比べるとキャスト、演出とも地味だけど、でもこの映画が抜群に面白いし、教科書では今一つ解りにくい「なぜ二・二六事件は起きたのか?」という謎を、この映画では解りやすく解説している(二・二六事件を扱った映画では「二・二六事件 脱出」も面白い)。
面白いのはこの映画でテロを決起する皇道派グループを演じる面々に安倍徹、山形勲、丹波哲郎、細川俊夫、沼田曜一という後年のテレビなどで悪役や財政界の大物を演じる役者が揃っていることで、彼らの初々しい演技を見れるところが見もの。そしてそんな彼らをサポートする西田税を演じるのが後年権力者や悪役を演じることが多かった佐々木孝丸というのも絶妙。西田は当初佐分利信が演じるはずの役柄でこの映画の実質的な主役であり、西田が本来二・二六事件の主要人物である北一輝を差し置いて目立っているのはそのせいらしい(おかげでこの映画では北はやや地味な存在に)。
本来は国が無闇に戦争に突入するのを憂いている主人公たちがそれを止めるためやむにやまれず決起し、当初は大物軍人の賛同もあるため安心かなと思ったら、昭和天皇の予想以上の怒りによって風向きが変わり、逮捕され主人公たちが挫折していくさまを監督の佐分利信、阿部豊たち、脚本の菊島隆三が見事に描いている。
でもこの映画で一番の魅力は安藤大尉を演じる細川俊夫だと私は思っている、思慮深く優しい人柄で、テロ行為にも疑念を抱いていたが、世間の状況を痛感し遂に決起する。そしてテロ行為が失敗に終わったあとも、部下のことを思いやり彼らを元の部隊に戻したりする。そして牢屋にいれられてからの事件の全貌を悟りつつ、それを嘆かず冷静に受け止める姿。細川俊夫の一生一代の名演ではないだろうか。兵隊と警察の衝突を防ごうとする宮口精二の副総監も良い。
ちなみに冒頭で二・二六事件のきっかけのひとつとなった永田鉄山惨殺事件が描かれているが、その永田少将を殺した相沢中佐を辰巳柳太郎が演じていて、そのハマり具合が凄い。辰巳自身の愚直そうなキャラクターも相まって、永田を殺したときの眼の向きかた、そして銃殺されるとき、「目隠しなんか要らない」と拒否して顔を晒した状態で殺される姿、本当の相沢を見ているような気になってしまう。
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