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街をぶっ飛ばせのnetfilmsのレビュー・感想・評価

街をぶっ飛ばせ(1968年製作の映画)
4.0
 ある集合住宅に帰宅した自作自演のシャンタル・アケルマンの狭い台所で繰り拡げられる異様な行動をカメラは追い続ける。花束を持ち帰宅したの彼女の姿。鼻歌交じりに階上へと駆け上がると、勢いでパスタをゆで始める。潔癖症なのだろうか?パスタの茹で上がりを待っていられず、床をモップで磨いたり、しまいには床を歩く靴まで靴墨で磨くのだが、床は綺麗になるどころかかえって物であふれかえり、足まで汚くなる。白いタイルに囲まれた部屋は白昼夢のように彼女を閉じ込める。そこから先映画は台所を一歩も出ることがない。何やら「スコスコスコスコ」と連呼する言葉はスコッチと言っているのだろうか?よくわからない。三角巾を被り、バケツをぶちまけ、赤ワインにパスタで夕食にするのかと思いきや、また忙しなく動き回る。しまいには化粧液を顔に塗りたくっては狂ったように踊り出す。

 12分という時間の中でエネルギッシュな彼女は時間恐怖症的に絶えず忙しなく動き回る。同時に複数のタスクをテキパキとこなしながら、全て台無しにする道化師のようなシャンタル・アケルマンのおどけた表情。彼女の姿は、母親の背中を模したものだろうか?当時は女性の持ち場と言えた台所で、そこで繰り広げられる悲劇と喜劇、憧憬と焦燥、正気と狂気。ドアにカギをかけるだけでは飽き足らず、ドアの僅かな隙間に養生テープを貼っていく姿は正気の沙汰とは思えない。よく処女作にはその後の作家としての全てが含まれるなどと人は言うが、誰か別の人間が出て来ることもなく、全て孤独な女の台所という僅かな空間で繰り広げられる奇妙なオブセッションは、来たるべき『ジャンヌ・ディエルマン』の狂気を早くも彷彿とさせる。
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