昼行灯

ピアニストを撃ての昼行灯のレビュー・感想・評価

ピアニストを撃て(1960年製作の映画)
3.8
フィルム・ノワールのスタイルを踏襲しつつも、実態はほぼコメディ。フィルム・ノワールの原型はフランスにあったはずなのに、アメリカを参照した結果、どちらでもないフィルム・ノワールが出来上がったのが面白い。

確かに主たるストーリーは人生に絶望した主人公のさらなる悲劇って感じでシリアスなのだけど、その端々でギャングや主人公が話す台詞には笑わずには居られない。特に「お袋の命にかけるぜ」とギャングが言った後、突如挿入される彼の母親(初登場)が卒倒するワンカット。明らかに大筋のストーリーからしたら浮いてしまう存在で、初期映画のノリを思い出す。あと、主人公がヒロインに触れようと悪戦苦闘する際のボイスオーバー。通常フィルム・ノワールでボイスオーバーと言ったら主人公の取り返しのつかない過去への回想といった体を取ると思うが、本作では恋愛に奥手な主人公の現在の胸中を描写しており、ややもすると青年向けアニメの主人公みたいな感じさえある。
ちゃんと過去を回想するボイスオーバーもあるにはあるけど、男の過去を語る際に男の回想に続き、ヒロインも回想し出すのが興味深かった。私はフィルム・ノワールの回想に関して、主人公による過去の美化がヒロインをファム・ファタールたらしめているためにフェミニズム的に問題がある傾向があると思っているが、本作ではそれが回避されていると感じた。男の後に女も回想することで、多面的な視点で過去を掴むことが出来るというか。まあいうて多面的な回想でもジェンダー的に問題ありな作品もなくは無い(『羅生門』)

あとは、映画だったら胸を隠すんだみたいな自己言及的な一幕だったり、酒場の店主のショットが3つの円に分けられたスプリットスクリーンの後に信号機のショットが来るという形態類似など遊び心に溢れていたのが伝わってきて微笑ましかった。
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