櫻イミト

パリはわれらのものの櫻イミトのレビュー・感想・評価

パリはわれらのもの(1961年製作の映画)
3.5
ヌーベル・バーグの中心的存在だったジャック・リヴェット監督の長編デビュー作。脚本も本人。パリの女子大生が闇の陰謀組織の秘密を探るミステリー。

1957年夏、進学でパリに来た女子大生アンヌ(ベティー・シュナイダー)は兄のピエールが謎の陰謀組織に荷担しているという噂を聞く。さらにその件に絡んでフアンというギタリストが不審死を遂げ、彼の残した録音テープが行方不明になっているらしい。アンヌは兄に紹介され芸術家、インテリ、亡命者など様々な人々と知り合う。そして、演出家ジェラールの劇団に加わり、一方でテープの捜索を始めるのだが。。。

タイトルの印象とは違っていて「パリの陰謀」とでも呼びたい内容だった。最初は登場人物の多さに付いていけるか不安になったが、進んでいくうちに人間関係が分かってきてミステリー仕立てを楽しむことができた。登場人物が次々に陰謀組織とその恐怖を口にし、誰も確固たることは言わない。実は共同幻想や都市伝説なのではないかと思えてくる。終盤には実際に人が死ぬので何かが起こっているのだが結局最後まで謎は残る。

観終わった直後は、この映画は何だったんだろう?と呆気にとられたものの、不思議な味わいが残る作品だった。ヒロインのアンヌを演じたベティの初々しい雰囲気が良く、よく知らないパリの街をアンヌと共に捜索を進めたような気分になった。自分自身が進学で上京した頃に味わった、新たな人間関係との出会いのワクワク感や、東京という都市への好奇心と恐れを思い出した。本作の狙いの一つも無垢な視点でパリを再発見することだったかもしれない。アンヌの物語は映画が終わった後も続き、さらにパリという町の奥深さを知っていくのだろう。

リベットが敬愛する監督のひとりがフリッツ・ラングである。盟友のシャブロルの作品にはラングの大きな影響が見て取れるが、本作にも「マブセ博士の遺言」が横たわっているように思われるし、それだと解釈は明瞭になると思う。

・リベット監督インタビュー
「もし「パリはわれらのもの」の冒険を一言で要約しようと試みるなら、ひとつの冒険——未完成の、おそらくは挫折した冒険、というほかに言葉が見当たらない。(中略)何の冒険か?ひとつの観念の、ひとつの仮設の冒険である。」

※本作はトリュフォー監督「大人は判ってくれない」(1959)、ゴダール監督「勝手にしやがれ」(1960)、が制作される前の1957年にクランク・インしたが、編集に1年以上を費やしたためかなり遅れての公開となった。

※「大人は判ってくれない」の中でアントワーヌが両親と観に行く映画は制作中だった本作

※トリュフォーの会社レ・フィルム・デュ・キャロッスとシャブロルのアジム・フィルムとの共同製作。リヴェット自身を始め、シャブロル、ゴダール、ジャック・ドゥミがカメオ出演。
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