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日本列島のpa4のレビュー・感想・評価

日本列島(1965年製作の映画)
4.5
寺尾聡が、あるインタビューで、自分が俳優になるきっかけは親父(宇野重吉)が主演したこの映画だったと。この映画を監督した熊井啓がメガホンをとる作品に、いつか自分も出てみたい、とも。それが実現したのが、松本サリン事件を扱った2000年の「日本の黒い夏 冤罪」だった。

上記「冤罪」のDVDに入っていた特典インタビューに釣り込まれて、本作「日本列島」を見た。まさに「社会派」の映画だった。

「正義」を追求した末に、何者か大きな組織に消される--。戦後間もなく、独立直後の不安定な日本を覆っていた諜報機関、特に米国のあの諜報機関の黒い霧。

こういったプロットをひたすらまじめに、丁寧に追って行けば本作のような「社会派」になるし、エンタメを過分に盛り込めば初期の007に、アクションを過分に盛り込めば近年の007やミッション・インポッシブルになる。

どれも面白いし、優れた作品が多いのだが、本作は変化球を一切使わず、直球だけををズバンと決めた。

米国従属の日本という構図は、現代でも同様だが、GHQの影が残るこの時代はもっと鮮明、悪質だったことだろう。本作はその「どうしようもなさ」をしっかりと描き、問題を提起した。

それにしても、本作の新聞記者たちのなんと奔放なことよ。ぞんざいな物言いで警察に食ってかかる煙たい存在が(私から見ると)、心地よい。こういう時代はもう来ないよなあ。こういう勢いのホコ先を一般市民に向けてしまったのが、松本サリン事件だった。自業自得だったのかも。

ラスト近くの記者同士の会話。「沖縄転勤かあ。日本の夜は当分、お預けだね」「何言ってるんだ。沖縄だって日本列島のひとつだぞ」。沖縄返還よりずっと前の時代を描いた本作に、この台詞を入れた感覚にしびれる。
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