Automne

バービーのAutomneのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.8
割りかし冷静なコンディションで見たので乗り切れなかったのもあると思うけど、思ったよりも微妙だったという印象。
家父長制的な現実と女性至上主義のバービーランドの対比はとても良かったし、男寄り女寄りどちらになりすぎても偏り過ぎてしまうとどちらかが被ってしまうということや、挟まれるジェンダーブラックジョークの数々は鋭くて良かった。
個人的には変なヤツ呼ばわりされてたバービーが『アデル、ブルーは熱い色』のレアセドゥ感あって素敵やったけど、おそらくマイノリティの表象であろう彼女は最終的にはゴミ処理させられることになるし、「売れるから」という理由で普通のバービーを作ると宣言した社長しかり、かなりぶっちゃけたセリフもあって、 SDGsやLGBTやらの流行も結局は“商品が売れるから”やってるだけなんだよねという、グレタ監督的にもバービーって題材はそういうものだったんだなあと俯瞰して諦観をおぼえた。たしかに私見として、グレタ監督の本質は非モテインキャ女子への寄り添い方にリアルがあって描写が上手かった記憶が強いので、作られた陽キャ的存在への解像度とやる気が低いのはよくよく分かる。つまりはバービーもっかいみるなら私は断然『ストーリーオブマイライフ』『レディバード』『フランシス・ハ』を観ます。
あと絶対に人間界に出たバービーは幸せになれない。それらも混み込みですべてを諦めてしまっている、そんな冷めた印象だけれど理知的であるとは思うしメタ展開として頭良いなとは思う。
バービーランドは友人、恋人、家族の3つの大事な人間らしい愛の要素が欠如しているので、愛のない世界で孤独に一個人として生きるあきらめ、物事は何も変わらないというさだめはとても悲しくなる。好きな物(趣味とか)もなく生きるのはとても辛いことだ。不変の中に喜びを見つけるのではなく能動的に生きるかと思いきや資本主義礼賛で没個性、何者かにはならずにつらい現実を粛々と生きていきましょうという着地点なのかも。有名にならずに、資本家的自由の効く高い地位やポジションにもならず、ひとりの人間として生きるというのはある意味で立派でもあるが、現代の実力主義で自己責任な社会システムを弱者側として甘んじて受け入れ、搾取され続けることを無言で肯定することでもある。問題はたくさんあるけれどそれらに目をつむりなんとか言い訳して暮らしてゆく、というこの世界のシステムが続く以上はジェンダー問題も社会問題も個人の問題も勝手に個人で折り合いつけてやりなさいという究極のあきらめ。その着地点に物語が設定されて誰が喜ぶかを考えると、言わずもがな資本主義では強者の立場にある既得権益であったり権力者側だ。とどのつまりはバービーは資本主義肯定+アンチ活動映画とも読める。ディテールが活動界隈に媚びてるように見えるだけで、本質はかなり冷め切っていてそれらへのあきらめとSarcasmなアンチテーゼに重点が置かれている。何者かになるという他者から定められた男性的ヒーロー像へのアンチというのは分かるけれど、せめて主人公バービーのごく個人的な好きなことだったり個人的な趣味だったりは尊重してほしかった。それがあるかどうかでも人生ってかなり変わってくると思うから。
個人的に面白かった点は、ケンがミソっぽくなったあとで毛皮を着てて「やりすぎやろ」と思って笑っちゃったけど、終盤で「フェイクファー」ってことが判明して、動物愛護団体にも配慮を欠かさない監督の隙のなさを感じたとき。こういう配慮ができるからこそ、本質は突き放しておいてガワだけマイノリティ風味で固めても炎上することがない。物語のディテールやパーツをエンパワーメントっぽくして寄り添ってる風にはしているけれど、本質的にはかなり冷めた視点で物語を描いているし、綺麗事を並べてないのが逆に客観的で信用できるが夢はない。まさしく狡猾。
ちなみにバービーのピンク色のセットをつくるのに多くの塗料を輸入したおかげで、世界的にいまピンク色の塗料が不足しているらしい。現実世界に影響を与えるバービーランド、おそるべし
ー完ー
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