NAO141

ヒトラーの忘れもののNAO141のレビュー・感想・評価

ヒトラーの忘れもの(2015年製作の映画)
4.0
本作は実話を基に製作されている。
第2次世界大戦時、デンマークはナチス・ドイツに約5年間占領されていた過去を持つが、ドイツが戦争に負けた事により、その占領支配から解放される事となる。ところがデンマークの海岸には戦時中にナチス・ドイツが埋めた約200万個もの地雷がそのまま残っており、その撤去作業はデンマーク軍の捕虜になっていたドイツ兵が駆り出されることになった。その大半が15~18歳の少年兵であり、半数以上がこの地雷撤去作業中に亡くなっている。

戦時中のドイツはユダヤ人に対しての虐殺を含め〈加害者〉としての側面で描かれる事がほとんどだが、本作では捕虜として地雷撤去という死と隣り合わせの危険な作業に駆り出されたドイツ少年兵の悲劇を〈被害者〉としての側面から描く珍しい切り口の作品でもある。これは実際にデンマークで行われていた史実であるものの、いわば歴史の闇に葬り去られようとしていたデンマークのタブーでもあり、この史実はあまり知られていなかった。マーチン・ピータ・サンフリト監督はあえてこのデンマークの暗部に斬り込んだわけである。デンマークの監督が製作した作品ということに意義がある。

本作はデンマークのアカデミー賞とされる〈ロバート賞〉で作品賞を含む最多6部門を受賞したほか、米アカデミー賞では外国語映画賞のデンマーク代表に選出された。また、東京国際映画祭でも〈地雷と少年兵〉のタイトルで出品されている。作品としては非常に淡々と進み、派手な演出といったものも特にはない。しかしだからこそリアリティーを感じるとも言える。

ナチス・ドイツが戦時中に何をしてきたかを我々は知っている。だからデンマーク側の気持ちも理解は出来る。しかし、この地雷撤去のために捕虜となっていたドイツの少年兵を駆り出し、その半数以上を死なせてしまった事実、これが正しい行為だったとは思えない。戦争は互いに憎しみを生むが、戦争が終わったとしてもそう簡単には取り除けない。これは非常に難しい事だとは思う。けれども相手を〈ドイツ人〉〈デンマーク人〉としてみるのか、〈一人の人間〉としてみるのか、どう捉えるべきなのかを問われているようにも感じる作品だった。直にふれ合うことで人の感情は動く(変わる)ものだと信じたい。なかなかの良作!
※個人的に本作のタイトルは、原題のまま〈砂の下〉か、あるいは東京国際映画祭での〈地雷と少年兵〉のままの方が良かったようには感じる。〈ヒトラーの忘れもの〉というタイトルは軽い。ヒトラーの残してしまったもの、というよりも、戦争そのものが残した悲劇というものを本作からは感じた。
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