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タルーラ 彼女たちの事情のwisteriaのレビュー・感想・評価

タルーラ 彼女たちの事情(2016年製作の映画)
4.4
㊗️『コーダ あいのうた』アカデミー作品賞・脚色賞・助演男優賞(トロイ・コッツァー)👑👑👑受賞記念ということで、シアン・ヘダー監督の長編映画デビュー作のこちらを初鑑賞。もともとインディペンデントの作品だったものをNetflixが独占配信権を買い取った形。それは『コーダ あいのうた』とApple TV+の関係と似ているといえる。

これはそれぞれに固有の生き辛さを抱える3人の女性の物語。エリオット・ペイジ演じるタルーラは定住地を持たずワゴン車でノマド的なその日暮らしをしている。他人のクレジットカードや食べ物をくすねたりととにかく手癖が悪い。彼女はとある偶然から、育児放棄気味のセクシーなキャロライン(タミー・ブランチャード)からベビーシッターに勘違いされ赤ちゃんを預かるはめになる。子育ての経験もなく頼れるものもいないタルーラはそれでも赤ちゃんを放っておくことがてきず、自分を捨てた元彼の母親マーゴ(アリソン・ジャネイ)のもとを訪れるが、マーゴはマーゴで社会的には成功しつつも家庭生活に大いに問題を抱える人物で……というお話。

血縁家族を超えた共同生活の可能性とか偶然性がナラティブにもたらすもたらす揺らぎとか非常に現代的なテーマを真摯に、でも滑稽に、魅力的に描いている。ところどころに挟まれるマジック・リアリズム的なシーンもあざとすぎず品があり効果的。子どもを産んだ女性全てに「母性」が自動的に備わっているわけではなく、子どもをもたない女性に「母性」がないわけでもない。このあたり『ロスト・ドーター』とも通底する機微の描き方もとても面白かった。ハッピーエンドというわけでもないのだけど、例のラストシーンにはふと観ている自分の身体も軽くなるようなエピファニーに包まれる瞬間があった。

ウェルメイドな『コーダ』とはまた別の魅力を持つ挑戦的な長編デビュー作のこちらも素晴らしい!共通するのは一シーン一シーンに滲み出る丁寧で地に足ついた確かな演出力。シアン・ヘダー監督、アカデミー賞まで獲った後の次回作に何を撮るのか、大いに期待しちゃいますね〜
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