shunsukeh

ラ・ラ・ランドのshunsukehのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
3.5
ミュージカル映画について考えてみた。
そもそも私はミュージカル映画を好まなかった。その理由は、ミュージカルシーンで感じる違和感だ。さっきまで普通の演技、演出だったのに、ある瞬間、突然、登場人物が歌い踊り始める。フラッシュモブやテーマパークを除いて現実にはほぼあり得ない。そして、次の瞬間、歌と踊りは終わり、何もなかったかのように普通の演技と演出に戻る。私は、この現実からの大きな乖離に馴染めなかった。
しかし、この映画「ラ・ラ・ランド」は楽しめた。それは、なぜか。
まず、第一に、ミュージカルシーンはファンタジーだが、ただそれだけでなく、主人公たちの脳内で思い感じていることの象徴的な描写だと理解できたことだ。例えば、それは、グリフィス天文台でのミュージカルシーン。プラネタリウムで二人は宙を舞う。星以外には自分の鼻先さえ見えない闇では、自分自身が闇に溶けて宙に漂っているような気がする。星しか見えない闇で、手をつなぐ二人には、宙を舞うような感覚が起こったのかも知れない。もう一つ、秀逸なシーンは、ラストで主人公たちが自分たちが選ばなかった人生を走馬灯のように想い描くところだ。多くの人が同様な想いに駆られた経験のあるこのシーンが、通常劇であれば、観る者が、それが主人公たちの頭の中の想いであることを瞬時に理解することは難しい。しかし、この映画ではそれをスムースにそしてスタイリッシュにやってのけ、それが通常劇、つまり、選ばれた人生に戻ったときの深い切なさに繋げている。
二つ目は、例えば、会って間もない主人公二人の夜景を見ながらのミュージカルシーン。双方が双方に対する興味の無さをストレートにぶつけ合う。その言葉は、通常劇の台詞にしてしまうと身も蓋もないもので、暗示、比喩、逆説などのテクニックをまぶして、表情、仕草などで表現しておきたいところだ。しかし、音楽に乗せた歌詞=詩の叙事、叙情であれば、ストレートな言葉であってもきつくも臭くない。回りくどさをワープできる。
三つ目は音楽と踊りの素晴らしさ。質の高いそれらはそれ自体芸術であり、人の心を震わせ躍らせるものでだ。特にこの映画では、ジャズの演奏が素晴らしく、思わず乗ってしまう。
この映画は、少なくとも私には、ミュージカル映画の楽しみ方、また、楽しめるミュージカル映画の要素を示してくれた。
shunsukeh

shunsukeh