Ryoma

ピクニックのRyomaのレビュー・感想・評価

ピクニック(1936年製作の映画)
4.7
うわーすごい。ムルナウ『サンライズ』と同じくらい完璧に構築された画面の数々で映画全体が満たされている。しかし不思議なことに、窮屈な感じはしない、むしろのびのび足を広げていて、大きく息を吸い込むと、微かな木々の囁き声まで、聴こえてきそうだ。そしてなにより、世界の中心でありながら外側、とでも言いたい時間感覚。あらゆるものの表面に纏わりつく存在感から抜け出して、ゆっくりと流れる、淀んだ川面で、交互に踊っている、光と影や、草木のざわめきや、胸の底をいっぱいにしてかき乱す、遠い春のにおい。歓びと哀しみ、憧憬と現実。その狭間で決して固定されることなく、どこまでいっても感覚の先へ、先へと、反復横跳びするような感覚。この名付けようのない感覚が、30年代のフランスの片田舎にある、と言いたいのではない。この名付けようのない感覚が、確実におれの中にあった、と言いたいのだ。そして映画の中にも。あとモネやルノワールの絵の中にも、確実に、あるんだわ。
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