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スター・ウォーズ/最後のジェダイのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.0
 前作のクライマックス、険しい岩山を登り、レイ(デイジー・リドリー)がたどり着いた先にはルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)の姿があった。その出会いの場面は2人の視線の交差で現され、幸福な出会いになるかに見えたが事実はそうではない。今作でレイはジェダイ・マスターで最後のジェダイであるルークに絶対的なリスペクトを込めてライトセーバーを渡すが、それを受け取った瞬間、ルークは明後日の方向に投げる。その性急な投げ方はやや極端な気もする。ハン・ソロやレイア姫とは違い、旧トリロジー3部作で誰よりも温厚な楽天主義者だったルークの変わり果てた姿に、時の流れの残酷さを思う。それは同時に甥っ子へのルークの烈しい愛と救えなかった後悔が滲む。J・J・エイブラムスならこの場面を今作の冒頭に堂々据えたはずだが、ライアン・ジョンソンのスタンスはそれとは一線を画す。レイア・オーガナ将軍(キャリー・フィッシャー)の司令の元、ポー・ダメロン中佐(オスカー・アイザック)一行はドレッドノート級のスター・デストロイヤーのキャノン砲を破壊する命令を受ける。前作でフィン(ジョン・ボイエガ)と意気投合した中佐にとって一世一代の名場面がフォースの使い手たちの繋がりとは関連のない場面で有機的に繰り広げられる。今作はこの現実に起きている事象と、フォースにまつわる血族たちのドロドロした葛藤とが極めて冷静につづれ織りのような見事な編み目で描かれる。

 自閉症スペクトラムに陥ったルーク、そして前作で実の父親を奈落の底に落としたカイロ・レン(アダム・ドライバー)は深い病巣の只中にいる。彼らをその病巣から救い出すのがレイの役目なのだが、今作では重要な役所の男性陣を奮い立たせるのが、皆生き生きとした女性陣だというのも非常に感慨深い。自らの手柄にすっかり天狗になり、勝手な行動を始めるポー・ダメロン中佐を諌めるのはレイア・オーガナ将軍やアミリン・ホルドー中将(ローラ・ダーン)であり、レイを助けようと勝気に流行るフィンを諌め、正しい方向に導くのは整備士ローズ・ティコ(ケリー・マリー・トラン)に他ならない。彼らの成長や気付きの前には常に印象的な女性たちの姿がある。それはデイジー中佐やコニックス中尉(ビリー・ラード)、敵役でもキャプテン・ファズマ(グェンドリン・クリスティー)など印象的な役所がことごとく女性キャストで占められることにも察せられる。中でもローズの姉であるペイジ・ティコ(ゴー・タイン・バン)の活躍は幾分悲劇的に扱われる。ホルドー中将の最期同様に彼女たちの最期はフォースの使い手同様に大枠で描かれる。印象的な女性キャラクターたちの最期を闊達に描写しながら、ライアン・ジョンソンの脚本はファースト・オーダーとレジスタンスの攻防を休むことなく描く。

 途中フィンたちが立ち寄るカント・バイトの街の美しさ、襟に赤いプロムの花を纏ったマスター・コードブレイカー探し、そこで出会うDJ(ベニチオ・デル・トロ)の善と悪の境目を気にしない痛快な悪漢ぶり(ベニチオのシリーズ史上最大のアドリブ演技!!)はレイとカイロ・レンの光と闇の葛藤をかえって浮き上がらせる。レイア・オーガナとルーク・スカイウォーカー、そしてレイとカイロ・レン、フォースの光と闇に導かれし選ばれし者たちは互いに交感し合い、薄皮1枚の世界でドロドロとした愛憎劇を繰り広げる。タラ=サイレンの乳から絞り出したブルー・ミルク、森の中を疾走するファジアーの群れ、Xウィング・ファイターやメガ・デストロイヤー・スプレマシーといったメカたちの造形の美しさも目を見張る。最高指導者スノーク(アンディ・サーキス)の僕となったエリート・プレトリアン・ガードの活躍など今作は伝説の名シリーズに新味を盛り込みながらも決して本筋はブレない。あくまで行動を事実として据えながら、AからB、BからCへと淀みなく進む物語は、弱々しい男たちを鼓舞する女性たちの姿が極めて鮮明に映る。前作でJ・J・エイブラムスが提唱した旧3部作への溢れる愛を引き受けながら、来たるべきエピソード9への道程もしっかりと開示した極めて優秀なつなぎ目を演じたシリーズ第8弾である。
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