mizuno

皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇のmizunoのレビュー・感想・評価

3.5
海外ドラマ「ブレイキングバッド」にドハマリして以来、麻薬カルテルに反応してしまう。ドラマに登場するギャングたちはそらもう極悪非道で恐ろしい。しかし実際の恐ろしさと残忍さはドラマの比ではない。わかってはいたけどしんどい映画だった…。(※この映画はドキュメンタリーです。実際の遺体についても触れてますので、苦手な方はご注意を!)



麻薬抗争に巻き込まれ毎日のように人がウジャウジャ死んでいるというメキシコのシウダー・フアレス。ギャングだけでなく警察や市民までもが信じられない数殺されている。あちらこちらに遺体、首、血だまり…。全身の毛穴が開くような話だ。日本に暮らす身としてはそんな日常、ゾンビが実在しているくらい現実味がない。おまけにナルコ・コリードというギャングたちを賛辞した音楽が若者たちの間で大ウケ。ギャングに憧れる世代が増え続けていると言う。「俺たち最強皆殺し!」みたいな歌に女子高生がキャーキャー騒ぐ光景…。そんなバカな…。
息子を殺された母親が「生きたまま切らずにせめて殺してから首を切ってほしかった」と泣き叫ぶシーンがあった。もう「せめて」の部分を願うことしかできないのだ。生活と死があまりにも近い。自分が無知すぎて嫌になるのだけれど、なぜこの抗争でこんなに人が死ぬのかわからない。説明されてもわからない。これだけの数の人間が惨殺される最もらしい理由なんてあってたまるか。



「メキシコ麻薬戦争の光と闇」と唱うだけあってこの映画の立ち位置はどこか中立だと思う。過度な演出なしに見せる作り方は誠実だけれど、わたしが感情移入するのはギャングでも警察でもなく一般市民だ。彼らの憤りは置き去りのまま。エンディングで流れるナルコ・コリードに胃酸が逆流する思いだった。
mizuno

mizuno