クシーくん

地獄のケークウォーク踊りのクシーくんのレビュー・感想・評価

地獄のケークウォーク踊り(1903年製作の映画)
3.6
ミステリー映画を観るつもりが脱線して無声映画を観てしまっている。

これは4~5分程度のごく短い映画でストーリーなどないに等しいが、面白い。内容としては地獄の底でモダンな衣装を纏った女性と悪魔がひたすらケークウォークを踊るだけの映画だ。

ケークウォークとは元々19世紀末、南北戦争後の南部アメリカで流行した、2ステップが特徴のダンスだ。ミンストレルショーなどに取り入れられ、20世紀初頭頃にヨーロッパへ伝わり大流行した。ラグタイムと深い関係を持つ音楽&ダンスであり、ひいてはジャズの起源の一つとなったらしい。

この映画が制作された1903年とは正に欧州でケークウォークが流行していた時期である。

ミンストレルショー、ラグタイム、ジャズという並びで分かるように、主に黒人が主体になって踊っていたが白人の間でも流行し、パリはモンパルナスのダンスホールには見物客が殺到したという。その騒音と黒人客が集まるという差別的な理由から地元住民から苦情が出て、件のダンスホールは店仕舞いに追い込まれたらしいが、ドビュッシーもこの音楽に影響されて作曲をするくらいには当時の風俗に深い影響を与えている。

その頃の映像をご覧頂ければ分かるが、飛び跳ねたりこそしないものの非常に激しい動きを伴う滑稽な踊りで、世紀末芸術的な雰囲気に満ちている。

あらゆる先駆者たるメリエスがこの奇怪な流行物に注目しない手はない。退廃的舞踊の舞台を神々の山パルナッソスから地獄へ変更し、流行に浮かれる女性達と悪魔の魔宴を供したのだ。

この発想も見事ながら、宙を舞う火の玉、地獄の魔王による手足分離ダンス、薄手のクロスを靡かせることで火煙を表現する等々、精巧なCGに慣れきっている現代人でも思わず感心出来る創意工夫に溢れた良い映画だ。
クシーくん

クシーくん