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道成寺のdm10foreverのレビュー・感想・評価

道成寺(1976年製作の映画)
4.5
【情念】

(あらすじ)
熊野参詣の旅を続ける若い僧が、ある家に一夜の宿を願い出る。その家の未亡人は僧に一目惚れをするが、信心深い僧は彼女を拒み、帰りに迎えに来ると嘘をついて屋敷を出立する。
しかし、約束した日に僧が戻らず裏切られたことを知った未亡人は、蛇に姿を変えて僧を追う・・・。

この物語は能や歌舞伎、浄瑠璃なんかの演目としても有名な「安珍清姫伝説」を、川本喜八郎氏の人形を使って表現した傑作人形劇です。

劇中はセリフもナレーションも一切入りませんので、まさに「目で見たまま」のストーリーが全てとなります。
元々のストーリーを知らずに観たとしても、何が起きているのかは理解できるようにリードはされますが、もし心配な方は、先に書いた「あらすじ」だけでもお読みいただければ十分だと思います。

この物語は決してそこまで入り組んだ人間関係だとか、時系列が複雑だとか、そういうことは一切ありませんので、本当に淡々と「あるがまま」のお話が展開してきます。

が、
これが怖い・・・。
人形劇だと思って甘く見てると、結構そのギャップにやられます。

川本喜八郎さんの人形って、能面と同じように「背景」や「場面」「照明」「見る角度」などによって、人形が本当に色んな表情を見せてくれるんですね。
安珍さんに一目惚れした清姫の情念が凄まじく、でも自分は修行中の身であるということを中々わかってくれない清姫が時折「鬼の形相」にすら見えてしまうっていう一連の描写が見事で、たった20分弱の作品ではあったんですが、本当に呼吸を忘れたんじゃないか・・と思うくらいに見入ってしまった。

安珍さんも悪いっちゃ悪いのよ。
根本的にイケメン坊主だし(笑)
ま、それはそういう風に生んでくれた親のせいなので仕方ないとしても、「後で戻ってくるから・・・」なんて嘘をついたら、そりゃ「お待ち申し上げます・・・」ってなるわな。
この「・・・」の含みですよ。
(必ずお戻りになりますよね・・・)の(・・・)です。
『そのうち諦めるだろうさ』って楽観してたんだろうけど、中にはいるのよ「諦められない人」って。
で、やっぱり清姫が「それ」だったのよ。

安珍さんを追って寺まで駆けていく清姫の鬼気迫る姿。
髪を振り乱し、着物も開け、あまりの激走に履いていた草履も脱げて、いつしか血塗れとなってしまった裸足のまま、それでもひたすら安珍を追って・・・。
この時の彼女の心境は「愛情」だったのかなぁ・・・
それとも
そして、怒りに満ちた清姫はついに毒蛇と化してしまうのだった・・・・。

・・・いや、まあ、約束はしたっちゃしたんだけどさ、そこまで惚れ込むほどまだお互いを知らないじゃない。
何なら「一目惚れ」ってあらすじにもあるくらいなんだし・・・。

でも、やっぱりお互いに一目会ったその瞬間に感じるものがあったんだろうね。

「こ、この人よ!」っていう感覚と
「こ、こいつはヤバいかも・・・」っていう感覚。

もうね、クライマックスはトラウマ級の怖さですよ。
そして、同時に切ないラストでもあります。
そうねぇ、もうそうするしかないかもねぇ・・・。
ある意味では「出会ってしまってはいけない二人」のお話だったのかもしれない。

それをね。
セリフなしで淡々と演じられるんだけど、凄いよね~。
人形が演じているのに、瞬間的な感情までビンビンに伝わってくるような表現力。
いや、セリフがないからこそ、人形の内面から感情が溢れだしてくるかのような説得力。

この作品は川本作品の中でも特に素晴らしいと思います。
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