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懲罰大陸★USAのblacknessfallのレビュー・感想・評価

懲罰大陸★USA(1971年製作の映画)
4.5
数年前にシネマカリテの危険な映画特集かなんかにラインナップされていて観て以来になる。あの時もこれは現実だと強く感じ寒気がしたけど、今回の方がその寒気を強く感じた。

ベトナム戦時下のアメリカ。国(政府)に反抗的な者達に恣意的に罪を着せ矯正すべき反乱分子にしたて懲罰公園(パニッシュメント・パーク)に送り更正教育をする。
この様子をヨーロッパのTVクルーが密着取材する。モキュメンタリー形式のディストピア映画。

反乱分子に認定された者達は砂漠と山しかない広大なパニッシュメント・パークの80キロ先にある国旗まで3日間以内に徒歩で行くミッションを課せられる。
2時間後には警備隊が彼らの後を追跡する。コースを外れたり、逃亡しようとするルール違反をした者は警備隊に捕まる、その際抵抗した者は射殺されることもある。公正なルールのように見えるが運用は極めて恣意的。37℃にもなる灼熱の砂漠の荒野を3日間も歩ける確率は低い、国旗にたどり着かなくてもルール違反になる。
パニッシュメントパークは反乱分子を死亡必須の無理ゲーに落とし込み独裁政治を強化するための虐殺装置だという恐怖の実態が話が進むに連れて明らかになる。

この残酷無比のデス・ゲームも怖いけど、それより怖いのは反乱分子だと判決を下す、裁判の模様。
容疑者として裁判にかけられるのは反戦活動家、プロテストソングを歌うフォーク歌手、反権力のジャーナリスト、反人種差別活動家、この辺はこの手映画の定番なのである意味安心して見れる。しかし、容疑者になるのは表立って政府に異を唱える者ばかりじゃない、平和主義から徴兵拒否した一般男性、その手助けをした男の妻、それと気持ちがおとなしすぎて社会に馴染めず引きこもり生活を送ってるだけの者。
要するに政府に反抗しなくても国家の施策に寄与しない者は反乱分子扱いになる。まさに今、我が国でも横行してる"生産性"のない弱者を社会のお荷物として敵視する風潮の行き着いた先の光景がこれでもかとばかりに描かれて怒りと恐怖で沈鬱な気持ちになる。

実際、この反乱分子認定を任されてる委員会の連中の言うことが実にリアルなんだよ。「国を愛しているのに戦争否定するのは反逆者だ」、「国民が国防に努めるべき時に何もしないのは犯罪だ」、「国に協力しないのは不道徳」だとか、もう我が国に為政者どもと取り巻き連中とまったく同じセリフで容疑者達を罵倒するもんで、遠からず日本にもパニッシュメントパーク制が創設されると思わずにはいられなくなる。絶望と恐怖に神経がからめとられていく感覚に襲われる。

不道徳だと罵られた容疑者が叫ぶ。
「何が不道徳か教えやろうか?」
「戦争は不道徳」
「貧困は不道徳」
「人種差別は不道徳」
「警察の蛮行は不道徳」
「迫害は不道徳」
「帝国主義は不道徳」
「全て、この国の姿だ!」

このままいくと政府と同化することが正義だと思い込んでる日本を愛する普通の日本人達の(卑屈な)良心の果実としてパニッシュメントパーク制は施行される。そして自分のような人間は反乱分子裁判にかけられ委員会の連中に不道徳だと罵倒されるから、このセリフを丸暗記しておくことにした。せめてかっこいい捨てゼリフぐらい吐いて終りたいからな。
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