netfilms

ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたちのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.9
 フロリダ州郊外にある閑静な住宅地、内気で周囲に溶け込めない少年ジェイコブ・"ジェイク"・ポートマン(エイサ・バターフィールド)はドラッグ・ストアでバイトをしている。クラスメイトの少女がジェイクに近付き、声をかけると彼は一瞬嬉しそうな表情を見せるが、せっかく綺麗に並べた陳列をいじめっ子たちにめちゃくちゃにされる。作家の父親フランクリン・"フランク"・ポートマン(クリス・オダウド)と相性が合わず、兄弟も友達も当然恋人もいないジェイクの唯一の話し相手は、祖父のエイブラハム・"エイブ"・ポートマン(テレンス・スタンプ)だった。祖父は孫に自分の幼少時代の不思議な体験をじっくりと語りかける。ウェールズにある「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」の古城のような屋敷、第二次世界大戦から逃れて来た幼い頃のエイブは彼らと共同生活をするが、街にはドイツ軍の惨禍が迫っていた。その古城でモンスター達と死闘を繰り広げていたエイブはやがて戦禍を逃れるために単身、英国ウェールズへと渡る。ジェイクはモンスターと戦った日々を夢中になって語る祖父の言葉に何度も魅了されてきた。その日、バイト先の店内で祖父から緊急の連絡を受けたジェイクはシェリー店長(オーラン・ジョーンズ)の運転で祖父の一人暮らしの部屋を訪ねる。スマフォから祖父の自宅に電話をかけると、エイブは明らかに取り乱した様子で「絶対にここには来るな」と不穏な予言をする。だが到着した平屋に祖父の姿はなく、林に囲まれた庭先でジェイクは両目がえぐられた祖父の悲惨な姿を発見する。

 ティム・バートンは社会から孤立し、疎外された異端者(アウトサイダー)たちを好んで自らの作品の主要人物として描いて来た。コミュニティに馴染めず、近所に住む誰とも実りある関係を築けないジェイクの描写は真っ先に『シザーハンズ』のハサミ男であるエドワード・シザーハンズ(ジョニー・デップ)や『エド・ウッド』のエドワード・D・ウッド・Jr(ジョニー・デップ)や『バットマン リターンズ』のブルース・ウェイン(マイケル・キートン)を連想させる。そればかりか認知症を患い、世迷い言のようなおかしな発言を繰り返す祖父エイブの姿に、『ビッグ・フィッシュ』のエドワード・ブルーム(アルバート・フィニー)を重ねずにはいられない。『ビッグ・フィッシュ』では父親エドワードの荷物を整理している時に、息子のウィル(ビリー・クラダップ)が父親の謎めいた秘密に繋がるヒントを見つけ、ホラ話の中に父親の真実の声を見つける。今作はまさに2000年代の代表作として記憶される『ビッグ・フィッシュ』と同工異曲の様相を呈す。物語を駆動させるのは息子ではなく孫だが、ジェイクが生前のエイブの手掛かりから、不仲の父親フランクとウェールズはケインホルム島へ向かい、初めて祖父エイブの幼少期の秘密の深淵に触れる。1943年、ドイツ空軍の攻撃を受け、壊滅的なダメージを被った屋敷のフォルムこそが、ティム・バートンが好んで用いた古城のイメージに他ならない。緑溢れる森の中にひっそりと佇む薄ピンクの建築物は前面に美しい庭と小さな池を配し、手入れの行き届いた庭は外部からはある種の死角となるような場所にそそり立つ。古屋敷はまるでドラキュラ伯爵やフランケンシュタインの屋敷のような不気味な荘厳さを放つ。

 ここで総勢12名ものアウトサイダーな少年少女たちを束ねるのは、女主人として外敵たちから彼らを守るアルマ・ルフェイ・ペレグリン(エヴァ・グリーン)である。ストップ・ウォッチを常に携帯し、秒数に到るまで厳格な時間管理を徹底するペレグリンの姿はさながら法の番人としての崇高さを讃えている。ファンタジーとグロテスク、楽しさと同時に狂気に満ちた恐怖というアンヴィバレントな感情が交差する世界観はまさにティム・バートンの箱庭的世界が滲む。複雑な人物描写を意図的に平板化して描いた前半部分は賛否両論だろうが、私は逆にその前半部分の随分と丁寧な描写に好感を持った。少女たちのゴシック調のガーリーなワンピースに対し、ジェイクやイーノック(フィンレイ・マクミラン)、ホレース(ヘイデン・キーラー=ストーン)、ミラード(キャメロン・キング)ら男性陣が好んで寒色系の衣装を好んで着ることで視覚的に対比される。ペレグリンと並び、印象的に描かれたエマ・ブルーム(エラ・パーネル)の人物造形は、バートンのこれまでのフィルモグラフィにおけるウィノナ・ライダー〜クリスティーナ・リッチ〜リサ・マリーへと連なる異常なまでのブロンズ・ヘアへの偏愛の系譜(翻ってブルネットへの偏愛)が見て取れる。ここまで露骨なヤン・シュヴァンクマイエルへのオマージュにも驚いたが、後半の遊園地の場面でのレイ・ハリーハウゼンへの無邪気なオマージュにもびっくりさせられた。恐らく初めての大胆なカメオ出演もあるバートンは20世紀フォックスの希望する『X-MEN』シリーズのような魔法少年少女たちの出鱈目なバトルに焦点を割きつつも、出資者との妥協案を探る箱庭的作家性は揺るがない。『ジャンゴ 繋がれざる者』の執事スティーヴンの拡大解釈でしかないサミュエル・L・ジャクソンの怪演ぶりにはしばし脱力したし 笑、時空に挟まれたヒロインを救いに走るラストには大ヒットしたあの日本映画への目配せも感じられる。久しぶりに心底やりたいと思える題材を見つけたティム・バートンの情熱が滲む快作である。
netfilms

netfilms