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僕は黒人のtiのレビュー・感想・評価

僕は黒人(1973年製作の映画)
4.0
何よりも、音の豊かさに驚かされる。挿入歌の素晴らしさはもちろん、日曜のダンスパーティ(早技のステップに劣らぬ、打楽器の熱狂ぶり)、演者自身によるナレーション、現地の環境音、後入れのコミカルな効果音(とはいえ暗澹でもある…)、すべて忘れがたい。
タイトルクレジットの裏で流れる、“Modiba cha cha cha” という曲には、鳥の歌を思わせる祝福感がある。語りが夢想へ移行する際、この曲がたびたび使われているのは、効果的だった。
ナレーションも歌っている。話し手が交替する際の、快活なリズム。“Abidjan”(アビジャン)と “Argent”(お金、アルジャン)とは、韻によってつながれているのだと思う。
夜が本当によく撮れている。ボクシング選手のターザンや、本作のマドンナ、ドロシー・アムールの艶やかな裸体。この美しさは、映画館で観なければ味わえない。

当然、社会的問題や、人類学的示唆を多く含んではいる。だが、映画のたたえる雰囲気は、気兼ねなく、楽しい。それはやはり、アフレコの語りによるところが大きいのだろうか。演者は自分を戯画化しながらも、声で生命を吹き込むことに、純粋な喜びを感じているようにみえる。シネマ・ヴェリテの要諦など、わからない。が、監督ルーシュが、フィクションの初源にある、そうした息吹をつかまえたかったことは、いたく感じられた。

字幕の赤崎陽子さんの仕事に、感心してしまった。
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