りょう

おみおくりの作法のりょうのレビュー・感想・評価

おみおくりの作法(2013年製作の映画)
3.8
 邦題とポスタービジュアルが妙にソフトなイメージで、普通にスルーしていましたが、日本のリメイクをきっかけに観てみました。とても静かな雰囲気でしたが、最初のイメージよりも重厚な映像で、さらに終盤の展開には絶句させられ…、とても印象的な作品になりました。
 日本の「村八分」という言葉は、火事と葬式という2つのできごと以外は一切関わらないことに由来しています。どちらも放っておくと自分に災いが降りかかってくるからです。葬式をしてあげなければ、死体が腐敗して疫病が蔓延してしまいます。
 そういう意味でも、身寄りのない遺体を処置する役割は、最終的に行政にならざるを得ません。必然的に最低限のことしか期待できませんが、地方公務員である主人公のジョンは仕事の範疇を超えています。
 彼のこれまでの人生に何があったかわかりません。“おみおくり”にこだわる理由も描かれませんが、そこをフラットにすることによって、彼の几帳面な性格が際立っていた印象です。葬儀の在り方は、宗教や文化でさまざまですが、弔うという行動や悼むという感情は、どんな世界にも共通します。ただ、まったくの他人に献身的になる彼の精神力と行動力には、普通の宗教家などにはないようなものを感じました。
 友人や親族らしき人物との交流もなく、1人で規律正しく生活してきた彼にとって、ケリーという女性との出会いは想定外だったのでしょう。突然の思いがけない感情がアクシデントを招いてしまいますが、その顛末があまりに悲痛です。エンディングの表現ですべて救済されたような気分になれることも含めて、かなり濃密で貴重な映画体験でした。
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