ジャン黒糖

ザ・マミー/呪われた砂漠の王女のジャン黒糖のレビュー・感想・評価

2.6
トム映画連続感想15本目!
稀代のスーパースター、トム・クルーズが次に挑戦したのはまさかの古典映画『ミイラ再生』のリメイク作!!
自分はこのタイミングで今回初めて鑑賞した!
いまとなってはダークユニバースプロジェクトがわずか1作で打ち切られたことをわかっている前提で観ると切ない…!

【物語】
ことの発端は紀元前、古代エジプト。
唯一の王位継承者だった王女アマネットは、その座に就いてエジプトを支配し、生き神として崇められる筈だった。
しかし、男の子が誕生したことで継承順位が落とされてしまう。
このことを恨んだアマネットは、死の神セトと悪の契りを交わし、父や継承予定だった男の赤子に手を掛ける。

彼女の悪行を阻止すべく人々は彼女をミイラ化させ、彼女の遺体と、儀式に使う赤いオシリス石はそれぞれ別の場所に封印される。
ところが21世紀現在、彼女の遺体はイラクにて、オシリス石はロンドンで発掘され…。


【感想】
本作、作り手の狙いは良かったかも知れない。
①現代的テーマによって再構築されるミイラ再生
②ダメ男を演じさせたら一級品のトム・クルーズ主演
③古代研究×SF科学×現代アクションによる"ユニバース"化

ただ、狙いとは裏腹に、本作はたとえるなら高級コース料理でフカヒレスープをまだ食べている最中にフォアグラを提供されたと思ったら目の前で板前さんが寿司握り始めた、といった具合で(?)、あらゆる要素がここまで一本の映画として破綻してしまうのか、と驚いた。(伝わりますかね、?笑)


以下、本作における自分が思う狙いと、上手く行っていない部分をつらつらと…。


①現代的テーマによって再構築されるミイラ再生

同じくミイラ再生を映画化した『ハムナプトラ』、特に『ハムナプトラ2』では主人公リック・オコーネルと甦った死者イムホテップという2人の男性が、妻であり、太古の本懐を遂げる生贄でもあるエヴリンという1人の女性を奪い合う、というある種普遍的に他ジャンル映画にも置き換え可能な構図があった。

一方、本作の主人公ニックは男性で、彼と冒険を共にするジェニーは女性。
そして、かつての恋人との想い半ばに目的を果たせなかった死者、という点においては『ハムナプトラ』のイムホテップと同じだが、今回現代に甦った死者アマネットは女性。
こうすることで、『ハムナプトラ』がヒロインを奪い合う冒険活劇だったのに対し、本作は主人公の男性が、いまを生きる目の前の大切な人=ジェニーを守るか、大昔の怨念=アマネットに屈するのか、という二者選択の姿が描かれる。
なるほどこの狙いはたしかに面白い。


②ダメ男を演じさせたら一級品のトム・クルーズ主演

しかもニックを演じるのはA.人格的には問題あるけどカリスマ的に有能な男か、B.元が難あり過ぎるダメ男 のどちらかばかりを演じることが多いトム・クルーズ。笑

A.はイーサン・ハントや『トロピック・サンダー』のレス、『ナイト&デイ』のロイ・ミラー、『ロック・オブ・エイジズ』のステイシー・ジャックスなど。
B.は『ザ・エージェント』のジェリー・マグワイア、『宇宙戦争』のレイ、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のウィリアム・ケイジ、そしてバリー・シールなど。

本作のニックは後者、ダメ男役で、当然アクションスタントも超一流ということも相まって本作の狙いと相性が良い。


③古代研究×SF科学×現代アクション×一流スターによる"ユニバース"化

2010年代中頃、ハリウッド映画界のメインストリームとなったMCUに倣えとダーク・ユニバース計画が始動し、一流スターたちが一同に会した写真を見たときにはワクワクさせられた。
トム・クルーズ&ソフィア・プテラによるミイラ再生、ラッセル・クロウのジキル博士&ハイド氏、ハビエル・バルデムによるフランケンシュタイン、そしてジョニー・デップによる透明人間。
『アベンジャーズ』のようなアッセンブル感は正直あまりイメージが湧かなかったけど、なるほどそれぞれの役者のイメージにもあった古典作品のリブート、ユニバース化がこのスター規模による大作映画で観られる、というのはたしかに期待でもあった。

しかも舞台は現代で、MCUにおけるシールズ、モンスターバースにおけるモナークのような、世界をまたにかけ活動する組織が本作にも登場し、彼らによる最新科学によって解像度の古代研究が秘密裏に進められている、というSF要素。
そして大作映画らしい、マイケル・ベイなみのド派手アクションも付いてくる。

こりゃ下手するといままでのユニバースものが小粒に見えてしまうほど、超豪華な大作映画になるぞ、と期待するじゃん。





なるほど世界観、物語設定、キャスティングの狙いは悪くないぞ。
しかし!本作は、↑に挙げた狙いがまぁ見事にハマっていない!

①の男女の三角関係も、現代に甦ったアマネットの目的がよくわからない。
死の神になるとどんな力を得られて、それによってアマネットは何を果たそうとしているのか。
古代エジプトでの描写で、アマネットは本来王位継承する筈だったが、男の子が誕生したことでその座を奪われてしまうという、わりと現代らしい課題感を抱えた悲しい女性。
そんな彼女は本懐を遂げようとする直前、おそらくは恋人との子孫を残したうえで恋人を石の剣で殺そうとしていたように見受けられる。

このことから彼女には、おそらく恋人との子孫を残すこと、その恋人を殺すことで自身の死の神セトとの悪の契約を完成させること、の2つが目的にあったと思って見ていた。

ところが、現代パートに移ってから一向に彼女がニックとの子孫を残そうとアクションを起こしているようには見えず、どちらかといえば後者の目的=死の神セトとの契約の完成のみが目的のように見えてしまった。

そのあたりがよくわからないから観ていても「なんかわからんが、彼女に関わるとヤバそう」の域を出ない。
アマネットは石の剣でニックを倒すとどうなるつもりだったのか?
(ニックを生き神にしたい、とかの描写はあったのでおそらく説明はあったのだろうけど、自分は初見ではよくわからなかった笑)

また、ジェニーも考古学研究者らしいけど、ひたすらアクションの連続のせいで彼女の考古学者としてのスキルが発揮されることはない。
そのうえ、ニックとおそらくはワンナイトな関係を築いた(けど、互いにワンナイトで終わらせたくなかった…?)程度の間柄なので、ニックもなぜ他の人でなくジェニーじゃないとダメだったのかの説得材料に欠ける。


そのため、この2人の女性を天秤にかけてどちらを選ぶか迫られるニックだけれど、「絶対にこっちを選ばなきゃダメ!」と観ていて必死になる要素がどちらもあまりない笑

どちらの女性を選んでも結果がどうなるのかよくわからないので、とりあえず映画的には無条件にそりゃヒロインを助けるでしょ、って展開になり、最終的に選ばれない側の女性は単に可哀想な末路にしか見えてしまい後味が悪い。。
彼女は本懐を遂げたかっただけなのに…。
(といいつつ、その目的を遂げたら得られるものが何か、よくわかんなかったけど笑)


そして、そんな2人を選ばなければならないニック。
彼のキャラクター設定もよくわからず。。

米軍組織にいる人間なのか、単なる冒険家なのか、もわからなかった。
②に書いたとおり、ダメ男が徐々に成長する姿を演じるのが上手いトム・クルーズが、本作においては、アマネットやジキルたちに巻き込まれながらも走り続けているのだけど、終始受け身なのか、推進していくのか、よくわからかった。笑

中盤、そんなよくわからない男ニックのなかにある優しい部分をジェニーが褒める場面があるが、あれもなぜこのタイミングで褒めたのかわからなかったし、褒められたニック的にはパラシュートをめぐるあれって…笑

終盤、アマネットが追い求めていた石の剣と赤いオシリス石をめぐってニックがとる行動も、ただでさえずっと走り続けて情報量が全然無いのに、よくあれで行けると勝算があったもんだ、と驚いてしまった。

あと、ニックのバディであるクリスが途中からイマジナリーフレンズ的な存在で冒険を共にし始めるけど、彼も何を果たせば目的達成になるのかよくわからず、なんで途中からニックについてきたのかもよくわからなかった、説明して。笑


このように、本作全体的に見せ方が悉く咀嚼しづらく、aという行動をしたからbになった、という状態変化、伏線回収、物語推進がよくわからない。
それが如実に表れていたのが冒頭。

映画は西暦1127年英国における十字軍騎士団の場面で死の神セトの石の剣に必要な赤いオシリス石が遺体とともに埋葬される描写で始まる。
そしてその発掘された現在のロンドンの描写に一旦移ったあと、今度はそのオシリス石の存在理由を説明するため紀元前エジプトのアマネットの描写になったかと思いきや、彼女が埋葬された現在のイラクが描かれる。


これ、自分が上で【物語】に書いたように、アマネットというかつて古代エジプトに存在した王女はミイラ化され、その遺体は現在のイラクに、オシリス石は現在のロンドンにあったが…
ってコンパクトに過去回想と現在パートをまとめることできたよね?!

最たるは上述の通り、アマネットの目的、ニックの行動心理がよくわからず、勿体無い脚本だなぁと思ってしまった。


そして最後、ユニバース化を視野に入れた本作の作り。
本作にはMCUにおけるシールズ、モンスターバースにおけるモナークのような組織、プロディジウムが登場する。
彼らの存在目的もよくわからない。
モナークのような研究機関としての機能を持っているようでシールズやヒドラのような用心棒もいる。

そのうえ、アマネットが手に入れたかった死者の力の真髄もよくわからないので、ラストシーンは一体このユニバース全体がどこに向かっているのかも伝わりづらかった。


これは個人的な主観だけれど、ユニバースものを成功させるには大きく2つのアプローチがあると思った。

一つはMCUのようなヒーローたちキャラクターの人物像や関係性に重点をおいた世界づくり。
もうひとつはモンスターバースのような、人物像という意味では没個性的だけど有無を言わさぬインパクトをもたらす怪獣たちの"見せ場"で持たせる世界づくり。

MCUのアプローチはいまでこそ成功例だけど、それは結果論で、一作一作主人公たちを丁寧に描いた結果がたまたま巨大なフランチャイズへと発展しただけであって、単独ヒーロー作品の面白さありきだった。
これはフェーズ1,2で毎作積み上げてはサーガ全体の終着のさせ方を調整してきた、結果的な奇跡といっていいかもしれない。
その点、DCEUがなかなか上手く行かなかった理由は、最初からユニバースの世界観を狙いすぎた分、単独ヒーローの面白さがなかなかアッセンブル映画に還元されづらかったのもあるかもしれない。

また、後者モンスターバースも、MCUほどの派手さはないが堅実にその世界観を広げているが、これは説明不要な怪獣、ゴジラとキングコングという看板役者的な存在感があってこそ成立している。


ダークユニバースも狙いはよかったかもしれないが、MCUのような奇跡は早々成立しないし、モンスターバースのような、説明不要な看板役者のポジションをトム・クルーズらビッグスターではなく、ミイラやフランケンシュタインなどのキャラそのものに追い求めた方が良かったのではないのかな、と思った。
だからこそ、プロジェクトが1作で打ち切りになって早々に作られたリー・ワネル監督の『透明人間』はそれこそキャラそのものの特徴を映画技法に落とし込んだ、すげぇ面白い作品だったので、やっぱキャラにポテンシャルはあると思う。


ポテンシャル、狙いは良くてもそれを実現することの難しさを本作は教えてくれた。
うーん、面白くはなかったです。
でも、ニックのダメ男ぶりとか良かった。
そんな一本です笑
ジャン黒糖

ジャン黒糖