せーじ

雨の日は会えない、晴れた日は君を想うのせーじのレビュー・感想・評価

4.2
325本目。

今回はちょっと、とりとめのない雑談から書いていきたいと思います。

■自分が映画の感想を書く理由とは
他のレビュー等でも書いていることなのですが、自分がFilmarksでこんなにもつらつらと映画の感想を書いてしまっているのは「何が面白い(面白くない)と感じたのかを形にしたいから」なのですよね。そこから見えてくるものがあるのではないかと思っているからなのです。
もちろん感想としては、余計なことをダラダラと書かずにシンプルに「面白い」「面白くない」とだけ書いてしまう方がスマートなのでしょうけれども、さまざまな人々の映画の感想を、さまざまなメディアで見聞きしているうちに、それだけではつまらないな…と思うようになってしまったのです。自分の中で「こういう理由があるからそう感じたのだ」という「仕組み」を解き明かしたいと思うようになったからなのですよね。
思えば自分は、幼いころから「仕組み」を知ろうとするのが好きな子供でした。流石に何かを分解したりするのは不器用だったり親に怒られるのが嫌なのもあって積極的にはしませんでしたけど、子供向けの絵本や図鑑などで描かれるさまざまな「図解」を見るのはとても好きだった記憶があります。普段見ることができないモノの内部構造や、アニメやドラマ作品の主人公の家の間取りだったりとか、今観てもワクワクしちゃうんですよね。あとは、工場の生産ラインの様子とかも、たぶんずっと見ていられると思います。
自分の「仕組みが知りたい」と言う欲求は、そういう性分が昔からあったからなのかもしれません。

※※

なので自分は本作を観ていて、主人公には強く共感をしてしまいました。一体どういうことなのか、このレビューではそのあたりを中心に書いていきたいと思います。

■「仕組み」が知りたかった主人公
主人公がモノを壊すようになったのは、突然ある悲劇に巻き込まれ、にもかかわらず感情が動かなかった自分自身に気がついてしまい、そしてある人物に言われた言葉に影響されて始めるようになった訳ですけども、それは別に破壊衝動に火がついたからではなく、逆に「壊すことでリセットしたい」という冷めた投げやりな姿勢になったからでもなく、不具合を起こしていた「仕組み」がどういうものなのかを知りたくなったからなのではないかなと自分は観ていて思ったのです。冷蔵庫の水が止まらない"仕組み"が、PCのエラーメッセージが出る"仕組み"が、トイレの扉がガタつく"仕組み"がどうなのかを知りたくて、あのような行動をとったのではないだろうかと思いました。表面的には暴力的で普通ではない行動に見えますけど、実際彼がしていたのは"探求"であり"分析"と言ったほうが近いものだったのではないでしょうか。そうすることで「泣けない自分」の何処が「普通では無いのか」を知ろうとしていたのだと思ったのです。自分にはそれがすごく手に取るように主人公の気持ちとして理解することができたのですよね。「うわあ、すげぇわかるわ。仕組みが知りたくなるその気持ち…」と。
しかし、人の心はそう簡単にはいきません。本作の主人公がシリアルキラーや自傷行為に走るような人間にならなかったのは、モノを壊し続けた結果、「物理的に解体・分解してモノの構造を知ったとしても、原因や仕組みが見えない場合があるし、形にならないこともある」ことに気がついたからなのではないかと思いました(それと、解体途中で怪我をしたことなどで"痛い想い"をしたからですね)。そんな中、主人公に寄り添おうとする存在が偶然現れ…というところで物語はそのあたりからどんどん面白くなっていきます。彼らとの関わりによって、主人公は「泣けなかった自分」と向き合うことができ、泣けなくともおかしくはない自分というものを確立することができたのではないでしょうか。怪我をしたシーンも「銃」を使ったシーンも、あれをああいう形で食らったことで、"痛み"を感じることができていることを主人公が自覚できたのだと読み取れば、わかりやすいですよね。
そして、そこまで辿り着けたところでようやく主人公は「じゃあそれなら彼女は"どう思っていたのか"」ということと向き合うことが出来たのです。終盤の展開はかなり断片的でわかりにくい部分もありますが、主人公が涙した彼女が遺したメモの「意味」を知ったところで自分は胸が熱くなってしまいました。「愛していたのかどうか」だけではなく、実は「愛されていたのかどうか」が見えていなくて、奥底では彼はそれを求めていたことがそこで理解できたからです。そこまで主人公が辿り着けてよかったなと心から思いました。

※※

というわけで、いろんな意味で「痛い」作品でしたが、最終的には暖かな気持ちにさせられる作品だったと思います。ただ、映画作品としての演出表現はかなりハイブロウで、コンテクストも高く、ぺろっと観ただけではわかりにくい部分も多々ある作品なのだとも思います。
そして邦題…。気が利いていると感じる人も居るかもしれませんが、個人的にはもっと適切な言葉があったのではないかなと思いますね。
この季節にピッタリな、しみじみと楽しみ、しみじみと反芻していく作品なのだとも思います。解説などを片手に、ぜひぜひ。
せーじ

せーじ