レインウォッチャー

間奏曲はパリでのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

間奏曲はパリで(2013年製作の映画)
3.5
要するに「雨降って地固まる(か?)」的な小噺なんだけれど、苦味もしっかり。

畜産稼業の日常を離れて過ごしたパリでの2日間は、あくまでも短い間奏曲。また、続いていく主の舞台へと戻らなければならない。それでもたかが間奏されど間奏、この時間があればこそ主題は引き立ち、生きてくる。

この夫は、誰が見たってガサツで古くてモラハラ気味かもしれない。しかしそれは外から見た一時の側面であって、生活や愛と呼ばれるものは内側のその先、算数の公式のような手段では測れないところにあるのだ、というようにも気づかされて、真にオトナでどこか清々しかった。

そんな風に味合わせてくれる秘訣は、やっぱり主人公ブリジット(I・ユペール)の洒脱な存在感にあったと思う。彼女はこれ見よがしに「囚われてる女」なんかじゃあなくて、ちゃんと自分で選択を続けていく歳を重ねた人間として其処に居る。それは諦めや妥協なんかとは呼ばせない、彼女の尊厳なのだ。

I・ユペールって、決して軽い感じではない、むしろ支配力あるオーラを放つ人だと思うのだけれど、同時に幾つになっても「さん」でも「様」でもなく「ちゃん」付けで思わず呼んでしまいそうになるお茶目な少女性が瞳から抜けない人でもある。

今作(当時60さい)でもまた、ロマンスの気配やスーパーで流れるダンスポップ(Breakbot!)にときめいたり、観覧車の高さに失神しそうになったり、ロシア帽とベルボトムが決まった出で立ちは貴い猫科の動物を思わせたりと、「くそぅ、かわいいかよ」てな感じでやり込められっぱなしであった。それでいて、シャツの胸元をすこし開けるだけであの危うい色香だし、窓を見つめれば切なさに目が離せなくなるんだもの。

ところでパリ市の紋章には、『たゆたえども沈まず』というラテン語の文句が古くから刻まれているそうだ。まさに、ブリジット=ユペールの佇まいらしくないだろうか。